初段から八段まで様々な剣士が所属している。そんなヨーロッパで感じた武道文化の違いについて今回はご紹介していく。専門的な技術比較ではなく、市井の剣士として感じたことをまとめていきたい。
防具袋から見る日本の絶対的安全
剣道の防具袋をご覧になったことがあるだろうか。日本の剣道人口は2014年末で177万人と言われており、部活動も盛んなため、街で見かけることも多いのではないだろうか。
剣道の防具袋(写真:著者撮影)
この防具袋を、オランダのコンビニの外に置きっ放しにして数分放置した結果、警察官に囲まれる騒ぎになったことがある。
店から出ると、防具袋の周りに3、4人の警察官が。「私の荷物ですが、どうかしました?」と呑気に聞いたところ、「テロかと思ったじゃないか!これはベリーベリーベリーstupid(愚か)な行為だ!高い罰金を支払ってもらう!」と恰幅のいい婦警さん怒られ、震え上がった。
たしかに、ヨーロッパでほとんど見かけないこの袋には、得体の知れない恐さがある。黒くて大きいので、爆発物と言われればそう見えてくる。
日本では、剣道の防具は店内で迷惑になるため外に置きっ放しにされていることがある。また、これに限らずカフェで席取りのために財布やカバンも置きっ放しになっている光景も目にする。
ヨーロッパ在住の先輩方からは、「テロに対する警戒心はヨーロッパは非常に強い。盗難防止だけではなく周りの人に不要な心配を与えないためにも、荷物は自分で持っているべき」とアドバイスをいただいた。
礼の文化
剣道には、「礼に始まり礼に終わる」という言葉があり、礼をする機会が多い。これは、相対する人たちに尊敬と感謝の気持ちを示すためだ。剣道の本質は人間形成にあるため、勝ち負けにこだわるのではなく、礼の精神を大切にしている。
日本武道館での試合。中央の国旗の他、各道場の旗が会場に掲げられている(写真:著者撮影)
オランダのアムステルダムで、昨年から有志の朝稽古が実施されており、ある日ユダヤ人の剣友が号令をとった。稽古の初めに、「正面に礼」と「お互いに礼」を正座して行うのだが、「正面に礼」がなかったため指摘したところ「あれはフラッグ(旗)に礼でしょ?」と言われた。「正面に礼」は、もともと神棚がある方向にするのだが、道場や学校によっては神棚がないため道場旗や上座に礼をする。
とっさに、「いや、フラッグに礼じゃなくてゴッド(神様)に礼だ」と返したところ、「ああ……ゴッドね」と納得してもらえたのだが、ユダヤ教の彼と無宗教の日本人の私で、「正面に礼」でお互い一体何に礼をしているのだろう……と不思議な感覚に陥った。
日本にいると、ちょっとしたことで生活の中に馴染んだ「日本人らしさ」を見かける。「いただきます」と食べ物に感謝する行為、「ありがとうございます」と相手に礼をする行為、剣道の場合は、これから一緒に稽古をする人たちに対する感謝の気持ちや、自分より超越した何かに祈る行為なのかなと思う。日本人の謙虚さのルーツみたいなものではないだろうか。
かといって、ヨーロッパの人々に礼の精神が欠けているわけではなく、剣道の所作に関しては、各々学び、日本人よりも細かい所作を身につけているケースも多い。