その後、2016年に、ケータリングや社食事業を手がけるノンピに参画。現在は取締役として、LINE、三菱地所、グラクソ・スミスクラインなど名だたる企業の「社食改革」を任される。
なぜ社食に力を入れるのか? 食を通じたイノベーションの可能性とは? 最前線をいく荒井に話を聞いた。
グーグルの社食は断られたことから始まった
「産業給食」とも言われる社員向け飲食業界(コントラクト・フード業界)の日本市場の規模は、約3兆3400億円。中でも社食は「常駐型」にあたり、弁当などを売る「非常駐型」、ケータリングなどの「中間型」に比べて参入障壁がもっとも高い業態です。
イギリスのコンパスグループ(売上高3兆円超)、アメリカのアラマーク(同1兆6000億円)、フランスのソデクソ(同約2兆5000億円)の世界3大コントラクターの傘下にある日系会社3社が、ほぼそのシェアを占めています。
実は、渋谷オフィス時代のグーグルからの要求、すなわち、「キッチンがない環境で毎日違うメニューを」は、そのコンパスグループ傘下の日系企業さえ、最初は断ったんです。
さらに他2社も挑戦をあきらめたところで、当時西洋フード社長だった幸島武さんの英断により、アルバイト4人とともにケータリングの形で毎日ビュッフェを提供する形を導入。その後、六本木ヒルズへの移転後には、社員2000人のためのカフェテリアを立ち上げました。
僕にとってのグーグル時代は、食を通じて人が集まり、会話が交わされれば発想が生まれ、イノベーションを起こせることを電撃的に実感できた経験でした。
Gmailのアイデアも社食で生まれた
六本木ヒルズの27階にグーグルレストランを作ったとき、窓ぎわが絶景なのに、カウンター席を作りませんでした。「個食」ができないようにです。その代わり、8人掛けのテーブルをたくさん作りました。部署が違う人たちをあえて「相席」させ、フロアを回遊している僕がたまに割って入って話をつなげたりしました。
実はGmailのアイデアも、グーグルの社食で、ご飯を食べながらの雑談から生まれたと言われています。顔を見ながらのコミュニケーションの場、そこからイノベーションを起こすためには、まさに「食」が最適だと痛感しましたね。食のコミュニティーを作ることは、本当にすばらしい仕事だと思いました。
そもそも時価総額上位の企業は、食を通じたコミュニケーションを重視しているところばかりです。グーグルの社食が1番というのは間違いないですが(笑)、アマゾンも社食で有名ですし、アップルも、グーグルのフードチームからスタッフを引き抜いたりしています。
出典:pmconf2018「食文化を支えるプロダクトマネジャーの仕事」