医療分野へのAI活用が進むと、医師にとって外注できる単純作業が増え、それによって人間にしかできない作業に時間を割くことができるようになります。そもそも、AIがすべての病気を診断してくれるようになるわけではありませんし、医療におけるAI化の利点は、むしろそこだと思います。
医療の現場で提供されるものは、診断や治療だけでなく、ちゃんとした説明を受けて漠然とした不安が解消することや、患者さんが納得できることといった部分にも価値があります。たとえばプリンターが吐き出したAI診断結果をただ見せるのでなく、同じ診断であっても、人間である医師が表現することによって、患者さんはなるほどと腑に落ちる。
このような患者さんの「納得感」につながるアナログなやりとりの時間も、AIが間接的にもたらしてくれる大きな恩恵ではないでしょうか。私が子供心に尊敬したような町のクリニックで、デジタル化できないコミュニケーションの技がもっと発揮される時間。それを、AIが生み出してくれると思います。
沖山 翔◎東京大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター(救命救急)での勤務を経て、ドクターヘリ添乗医、災害派遣医療チームDMAT隊員として救急医療に従事。2015年 医療ベンチャー株式会社メドレー、執行役員として勤務。2017年 アイリス株式会社を創業、AI医療機器の研究開発を行う。産業技術総合研究所AI技術コンソーシアム委員・医用画像ワーキンググループ発起人、同AI研究センター研究員、救急科専門医。