「Musubi」の特徴の一つは、薬局での大幅な業務軽減を実現すること。薬剤師が店頭で、患者とともにタブレット画面を見ながら服薬指導する際、システムが薬歴を自動記入する。従来、薬剤師が1日2〜3時間かけて、薬歴情報をパソコンに入力してきた手間を一気に省ける。
患者に対して、薬の効果や飲み方の指導に加え、健康的な生活を送るためのアドバイスも提案。レセプト(診療報酬明細書)作成用のコンピュータと連携し、処方箋や生活習慣の情報を入力すると、年齢や性別、疾患、過去の薬歴など一人ひとりに合わせた生活アドバイスを自動生成する。
例えば、腸の調子がわるい患者に対して「お通じを良くするには、フルーツだと食物繊維が多めのキウイがお勧めですよ」と提案できる。こうした患者側の顧客体験に目を向けている点に共感が集まり、2017年8月の販売開始以降、8000店舗から問い合わせを受けてきた。
「これまで薬局を訪れる患者側の期待は“早く薬を出してくれ”。ただ、薬剤師はみんなが思っているよりかなり能力が高い」
母は薬剤師で祖父は医者。薬について熱い議論が飛び交う環境で育った中尾は、薬剤師がもつ豊富な薬学知識を生かせば、患者が短い診療時間では聞けなかった症状に関する悩みを解決するなど、医療従事者との間にある情報ギャップを埋められると確信している。
「薬局は医療の中で患者が必ず通る動線上にある。薬剤師が能力を最大限に生かし、患者と深く関われば、重症化や再発防止につなげられる。その先にあるのは、医療費削減や健康社会の促進だ」
中尾が次に見据えるのは、薬局の中だけではなく、外の「潜在的な患者」に対しても新しい体験を与えること。今後は「Musubi」に蓄積されていく、薬剤師と患者との対話データも含めた健康データを生かしサービスを発展させ、医療と患者の間に多様な架け橋をつくっていく。
中尾 豊◎医療関係者に囲まれた環境で育つ。大学卒業後、武田薬品工業でMRとして従事。患者と医療関係者の情報格差に課題意識をもち、2016年3月にカケハシを創業。