しかし、少子高齢化とレジャーの多様化でスキー場経営は赤字が続き、2006年に浦佐国際スキー場が、2011年に浦佐スキー場が閉鎖になった。周辺の宿泊施設も一気に閉業し、ピーク時に70軒近くあったのが、今ではたったの7軒になった。旅館だった建物はアパートや高齢者施設になったものもあれば、買い手が見つからず、無料同然で売りに出ている物件もある。
私は、そんな廃墟と化した建物から徒歩8分の所で、昨年7月、お寺だった建物を改装して民宿「ホタル」を始めた。「旅館がこれだけ廃業に追い込まれているのに、正気か?」とか「観光資源がない所に誰が泊りにくるのか?」とか「お寺だった所に泊まるなんて不気味」と言われた。
改装工事をお願いした工務店さん以外、誰1人として「いいアイデアだね!」と言ってくれる人はいなかった。浦佐駅からは徒歩20分かかり、飲食店だって歩いて10分ほどかかる。周りには民家とたんぼしかない。
しかし、開業したとたん、予約が立て続けに入った。3年に1度、隣の十日町市で開かれている「大地の芸術祭」に来る外国人観光客が多かった。稼働率は8月に9割、9月は7割だった。大地の芸術祭が終わっても、予約は入り続け、10月と11月も稼働率5割だった。提供できる部屋は一つしかないにも関わらず、開業して4か月で17か国から160人が泊りに来た。
4泊していったオーストラリア人カップルは、日本に来るのが初めてだった。東京や大阪、京都など、大都市を周るだけでなく、何もない日本の田舎を見てみたいとう思いからネットでユニークな宿泊施設を探し、ホタルに行き当たったという。
日本人と違い、長い休暇が取れる国の人々は、有名な観光地以外にも足を延ばす時間的余裕がある。彼らはレンタカーでこの町の周辺をドライブし、田園風景を見るだけで心が癒されたという。