マイクロソフトの共同創業者で富豪のポール・アレンと一緒に仕事をしていた米製薬大手イーライリリー・アンド・カンパニーの元幹部、トム・ビューモルがこの夏を振り返って思い出すのは、アレンのそんな様子だ。
アレンはビューモルをトップとする新たな研究所の創設を決め、準備を進めていた。アレン研究所の1部門として開設されたアレン免疫学研究所(Allen Institute for Immunology)は、人間の免疫系とがんやその他の疾患との関わりについて研究する。
新設したこの免疫学研究所のほか、脳科学研究所、細胞科学研究所を運営するアレン研究所のアラン・ジョーンズ最高経営責任者(CEO)は、「誤解のないように言っておくと、ポールと一緒に働いてきた15年間、彼はずっと同じような調子だった」と話す。
「次は何?分かってきたことは?分からないことは──?」
死の直前まで精力的に活動
アレンの病気、悪性リンパ腫の一種である非ホジキンリンパ腫が再発したことをジョーンズとビューモルが知ったのは、秋になってからだった。アレンが世間に再発を公表する、ほんの少し前だ。アレンは今年10月、この病気の合併症が原因で死去した。
アレンはそのときまでに、新たな研究所に1億2500万ドル(約141億円)を投じていた。本格稼働を開始したこの研究所は今後、段階的に免疫系の研究を進める。
まずは健康な人、次にがん患者の免疫系について調べ、それらの結果をリウマチ性関節炎や潰瘍性結腸炎、クローン病をはじめとする免疫系が過剰に反応して自分の体を攻撃する病気の患者たちと比較する。
免疫系の研究に取り組むというアイデアが浮かんだのは、およそ2年前だ。そして、アレン研究所は彼らが新たな「フロンティア」と呼ぶ目標に向けて動き出した。それは、新しく研究所の創設が妥当だと考えるのに十分な大きな取り組みだった。
ビューモルはアレンについて、次のように語っている。
「ポールは私たちに、研究を前に進めるのだと諭し続けた。病気のメカニズムを理解したい、生物学を解体し、再構築したいと言っていた。影響力を及ぼそうではないか、と」