「当初は高齢者の転倒を防ぐ見守りシステムをつくろうとしていた。しかし、技術者が介護施設に行き、24時間体制で張りついてみると、介護現場の一番のボトルネックは、スタッフへの支援不足だと気づいた」。事業開発部の遠山修が説明する。
CSSは、居室の天井へ特殊なセンサー端末を設置し、高齢者の行動や転倒・転落などの事故、呼吸などの健康状態まで、リアルタイムで検知するシステムだ。1873年の創業以来、カメラやフィルムで培ってきた同社の光学技術、画像認識・処理技術を結集した。
情報は介護スタッフが持つスマートフォンに送信される。従来は居室からコールが鳴るなど異変を察知する度、現場へ駆けつけなければならなかった。だが、CSSではコール受信と同時にスマホ上で居室の映像を見たり、通話したりすることもできる。介助が不要な場合は駆けつけなくても済み、負担は大幅に減る。
2016年4月から、複数施設で導入。運用を通じて、高齢者の行動や振る舞いに関するデータが4万近く集まった。今後はこのデータをAIで解析し、高齢者に負担を強いることなく無意識に、日常生活動作(ADL)の変化などをいち早く捉える仕組みづくりを目指す。
さらに期待が高まっているのが認知症への活用だ。CSSによって、徘徊の兆候など夜間の居室内での行動や、人間が気づきにくい、ADLの変化なども計測・数値化が可能になった。認知障害の進行度合いも、経験則に頼るのではなく客観的に把握できる。
この8月、経済産業省主導で、同社を含む複数の大手企業がビッグデータを共有するプラットフォームを立ち上げた。連携して予防医療に乗り出す。常務執行役の市村雄二は言う。「ソフトウェアサービスだけでは先行者や大資本に勝つのは困難だ。これまでのハードウェアの技術を生かし、デジタルの力を使って、新しい価値を生み出せるモデルをつくりたい。そうすれば製造業の逆襲は絶対可能になる」。