ビジネス

2018.12.10

「ロードスターはマツダのものじゃない」藤原副社長に聞くモノづくりの真髄

マツダ 代表取締役副社長 藤原清志


三宅:その視点がすごい。「皆に共有する」って感覚なんですね。奪われてしまうとか、自分の権利にしたいと思うのが普通なのかと。

藤原:例えば、ロードスターってあるでしょう? あれは皆のもので、マツダのものじゃない。ファン、ジャーナリスト、サプライヤー、皆のものなんです。


国や文化、世代を超えた様々なファンと共に歩みを続けたロードスター。それを証明するかのように、累計生産台数は100万台を超える(2016年4月時点)。

三宅:そういう考えに至ったタイミングとかあるんですか?

藤原:2世代目あたりからかな。ロードスターは、もう自分たちのものではないと。だから、今後製造をやめるという選択肢もない。他自動車メーカーさんは皆、スポーツカーやめていったし、全くビジネスにならないけれど、ロードスターは皆のものだから我々はやめられないの(笑)。だから、「どうしたら作り続けられるか?」という視点で知恵がたくさん集まってくる。

三宅:今は所有にもシェアリングなど様々な形がありますが、それらと違いはあるんでしょうか。

藤原:皆にとっての財産、極端に言うなら文化財を維持しているような意識です。だからこそ綺麗に、大事にする。例えば、こんなエピソードがあります。

赤いロードスターに30年間乗り続けた90歳のおばあちゃんが「私は60歳の時、赤いちゃんちゃんこを着るのがいやで赤いロードスターを買いました」と。そして「もう乗れなくなってしまったので、お返ししたい。捨てるのは惜しいから、マツダに引き取って欲しい」とお戻しに来られたんです。30年乗り続けてきて自分のものではあるけど、一方で自分のものでもないんですよ、もう。「文化財であり皆のものですから」と(そのロードスターはマツダ広報車として保管中)。

三宅:いやぁ〜、いいですね。こうしたムーブメントは、ご自分で作られたんですか?

藤原:いえ。自分たちで作れたら、それは相当な天才だと思います(笑)。我々は車を提供しただけで、あとは皆が作ってくれた。でも、我々が目指しているのはまさにそういう企業です。皆を大事にして、皆に大事にされる企業。なので、手を携え合いながらものづくりをするし、地元の持つ風土や特色を生かしてゆく。お酒の醸すという感覚とも近しいなぁと思いますよ。

三宅:なんだか、マツダさんは「株式会社」という言葉の概念すらも変えてしまうような気がします。

藤原:株式会社は株式会社。ただ、株主資本主義ではない。かつてフォードの傘下に居た時、「自分たちは一体何者なのか? 今後どんな風に生きていくのか?」を社員全員すごく考えさせられたんですよ。その時から、自分たちの生まれ育った場所やその土地の持つDNAが非常に大事であるという感覚が芽生えましたね。

三宅:弊社も、「MIKADO LEMON」というレモンのお酒を開発する時、「ワインみたいに」「シャンパンみたいに」とか、外に特徴を求めてしまったんですけど、もっと自分達らしさがあるはずだ、と立ち帰りました。

藤原:地域の特徴をいかにして引き出すか、ということを考えれば、各地に大きなチャンスやヒントがあると思います。そしてそこは、マツダが一番大事にしている所です。広島は沢山の匠が居た地域じゃないですか。鍛冶屋、造船職人やヤスリ職人もいるし。そういう手作業や匠の技が根付く広島という地が、我々の車をつくっている。その地の文化が、自ずと活きていると思うんですね。
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監修=谷本有香 インタビュー=三宅紘一郎 校正=山花新菜 撮影=藤井さおり

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