いまや時価総額1兆ドル企業となったアマゾン。その始まりは「オンライン書店」だった。市場の懐疑的な声や幾多の危機を乗り越え、小売、クラウド、ほか全方向へ拡大を続けている。創業者ジェフ・ベゾスが見据える、アマゾンの未来とは?
アメリカにある他のIT大手とは違い、アマゾンは一般的な本社屋を構えていない。
シアトルには全世界で働く57万5000人の従業員や役員のうち、約4万5000人がいるものの、彼らは分散している。要は創業者兼CEOのジェフ・ベゾス(54)がいる場所、現在なら「デイ1タワー」がアマゾンの“本社”ということになる。
ビルの名はベゾスが常々口にしているモットーに由来する。それは「我々はまだインターネットの1日目(デイ1)にいる」のであり、「アマゾンは始まったばかりだ」ということである。
もっとも、それを額面通りに受け取るのは難しい。アマゾンは売り上げ、利益、株価のいずれも急伸しており、株価は過去3年間で270%、直近の12カ月間だけで103%上昇した。時価総額では世界一のアップルに迫っている。今年の売上高が2100億ドルに達しそうにもかかわらず、ベゾスはアマゾンをスタートアップであるかのように語る。
彼が成長の論拠とするのは「超ラッキー」な2つの事業だ。同社の原点である小売業には「何兆ドル」もの市場規模があり、「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」が開拓したクラウド市場も同じである。
「実際問題として、市場のサイズに制約はない」とベゾスは話す。
「確かに、市場規模が限定されたビジネスもある。でも、私たちはその種の問題とは無縁なんだ」
ただでさえベゾスは世界で最も恐れられているビジネスパーソンなのに、「私に制約などない」という彼の見通しに、世の経営者たちは安閑としていられないだろう。彼は無慈悲な長期戦の達人である。しかし、ここ数年で明らかになってきたのは、彼の最大の強みが自社の形を自在に変形できる力にあるということだ。それにより、アマゾンは隣接したビジネスへ大々的に進出していけた。
「ジェフ・ベゾスは私が見てきた中でも最も注目すべき功績を挙げてきたし、今後も挙げるだろう」と、世界最大の保険・金融会社バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットCEOは話す。
「彼は2つの主要な産業を制覇した。それも同時にね。しかもライバルたちの目の前で事実上のマーケット・リーダーとなり、業界の定義を書き換え、真のビッグ・ビジネスに成功しているんだ」
そのベゾスはいま、少なくとも4つの市場(ヘルスケア、エンターテインメント、家電、広告)に数十億ドルずつを投じている。アマゾンをまだ遠い存在だと思っている会社が数多く存在する市場である。4市場がいずれも彼が口にした「何兆ドル」のポテンシャルを持つことは偶然ではない。アマゾンの規模を考慮すれば、この会社は垂直方向にも水平方向にも拡大し、それぞれの方角でさらに多くの“破壊”をもたらすだろう。