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かくして彼らは学び始めた。キンドルはアマゾンのロマンを具現化したプロダクトだ。それには2つの理由がある。

第1にハードウェアの世界をこじ開けた点。第2に書籍というアマゾンのルーツに立ち返るものだった点。結局、キンドルが会社を変革することはなく、その後もハードウェアの失敗作が続いた。それでもベゾスの決断は、最終的にスマートスピーカーの「アマゾンエコー」という真のゲームチェンジャーへとつながった。

「今や、我々にもハードウェア作りの経験がある」と、ベゾスは笑う。

「肝心なのは忍耐だよ。スキルを学ぶ時間だけじゃない。物事が花開くには時間が必要なんだ」

──逆に、アマゾンが今どんなスキルを学んでいるのかが分かれば、彼らが近い将来、何を始めるのかが予想できる。

ベゾスは現在、ヘルスケアについて学んでいる。ヘルスケア業界はアメリカのGDPのうち18%を占める最大にして、最も非効率的な産業の1つ。ベゾスは昨年、前出のバフェット、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOと共同事業を発表した。著名な外科医のアトゥール・ガワンデをCEOとする非営利団体を作り、3社の従業員向けにより低コストで、より良質な医療を提供しようという試みである。彼らは、規模の拡大や複製が可能なモデルを作ることを念頭に置いている。

またアマゾンは6月、スタートアップ企業「ピルパック」を買収した。同社は処方薬を1日分ずつ袋詰めにして配達するオンライン薬局だ。業務に必要なのは注文処理や顧客対応、信頼性などアマゾンの得意なことばかり。加えて、アマゾンはヘルスケア業界にもう1つ足がかりを得たのだ。

ベゾスは広告についても学ぼうとしている。直近の四半期決算で、アマゾンは驚くべき数字を発表した。今年1年間の広告収入が80億ドルを超える勢いなのだ。確かにグーグルは人々が興味を抱いている商品を知り、フェイスブックは人々が購入しがちな商品を推測できるかもしれない。しかしアマゾンは彼らが実際に何を買い、さらに買う意思を示したかさえ知っている。フェイスブックとグーグルの複占状態となった広告業界に、第3の有力新人が割って入ることも想像に難くない。

ハードか、それともソフトか?

アマゾンが実験的に立ち上げた「アマゾン・ゴー」という食料品店は、最も“アマゾン的”と言えるかもしれない。ベゾスは常にコスト削減を重視してきた。そしてアマゾンは、顧客がこの店で食品を買うことにより豊富なデータを得る。さらにアマゾン・ゴーは、この会社が手がける事業のさまざまな側面を統合すると何が実現可能なのか、を実地に示している。



このリアル店舗には、生鮮食品チェーン「ホールフーズ」の買収で得た知見や、アルゴリズムとハードウェアの能力(人工知能やカメラ、センサー技術を組み合わせて、棚から誰が何を取り、何を戻したのかを把握する)、アマゾン・ペイの円滑な決済システムなどが注ぎ込まれている。

ヘルスケアと広告がアマゾンの垂直的な拡大を象徴するものだとしたら、アマゾン・ゴーはアマゾンがすべてのかけらを寄せ集めた時に水平的に何ができるかを示している。

そうしたかけらの中でも最も重要なのが、会員制プログラム「アマゾン・プライム」だ。プライムは本質的にはマーケティング・ツールとして顧客に買い物を促し、会費収入(17年の場合、推定100億ドル)を確保するための手段である。だが成長するにつれ、プライムは1億人強の会員に特典や特権を提供するためのツールへと変わった。

アマゾンが人気コンテンツに50億ドルを投じるのはプライムのためだ。年に一度のプライム・デーには36時間限定、会員専用のセールが実施される。この7月には1億点以上の商品が出品され、会員たちが何十億ドルもの買い物をした。

プライムはアマゾンの実店舗戦略も支えている。プライムの即日配送・集荷にはより多くの物理的拠点が必要で、それにより従来は手が出せなかった分野への進出もしやすくなるのだ。たとえば食品のような傷みやすい商品は、今までの同社のビジネスモデルには合わなかった。“書店キラー”のアマゾンが、今やアメリカの11州に16のリアル書店「アマゾン・ブックス」を展開している。



端的に言えば、プライムはアマゾンの“中枢神経系”となったのだ。社内のすべてをつなぎ、新たな市場への拡大の道筋を示す一方で、中核的な小売りビジネスをも活気づけている。

文=ランドール・レイン 写真=マイケル・プリンス, gettyimages 翻訳=町田敦夫

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