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「後戻りできるドア」でアイデアを生かす

アマゾンで最も重要な言葉──。それは、「イエス(いいよ)」だ。

「仮に、社員が斬新なアイデアを思いついたとしよう。その社員は上司やその上司、そのまた上司を説得する必要がある。それも1人でもノーと言えば、アイデアが潰されかねない」と、ベゾスは伝統的な企業の上下関係についてそう説明する。

そこで彼は、社員が「イエスへの複数の経路」を持てるようにした。例えば、「後戻りできるドア(イマイチと証明されれば覆される決断のこと)」だ。アイデアに何百人という管理職がゴーサインを出すことができ、従業員はそれを試すことができる。

「発明や実験には失敗が付き物だということは、ジェフも我々も承知しています」と、アマゾンの小売事業を統括するジェフ・ウィルケは言う。

「我々は“失敗”を称えています。社内中で起きてほしいですね。ジェフや私が責めることはありません」

ただ、会社の行方に関わるアイデア(またの名を「一方通行のドア」)については、ベゾスが「最高減速責任者」の役割を果たす。彼が求めるのは次の3つの点だ。

1つ目は独創性。2つ目は規模。3つ目は投資利益率(ROI)。その3条件を満たすアイデアが見つかるのは、突き詰めれば次の2つのモデルのどちらかからだ。1つは顧客のニーズを見直すこと。つまり、「人々の行動パターンがわかったから、この製品を提供してみよう」というもの。もう1つは先を見通すこと。「価値はわかったから、提供できる顧客を探してみよう」というものだ。

アマゾンという“怪物”は究極的には後者から生まれている。ベゾスは書籍の売り方を会得する過程で、在庫管理ツールを使えば隣接する業界にも進出できる点に気づいた。最初はCDやDVD、次に玩具や電化製品、やがては小売店で売られるほとんどの物品へ……というように。そのうえ、アマゾンを競争相手だった小売商たちに「プラットフォーム」として開放したのだ。

そこで終わっても不思議ではなかった。だがネット小売店になる過程で、アマゾンは技術面や輸送面の課題も克服した。ベゾスはそうしたスキルを中核事業のおまけではなく、独立したビジネスと見なした。臨時のプログラマーを雇う必要が生まれたとき、クラウドソーシング市場の草分けである「メカニカル・ターク」が誕生した。

効率的な配送インフラを構築したことが物流代行サービス「フルフィルメント」、取引の代金徴収を極めたことが「アマゾン・ペイ」につながった。特に重要だったのが、クラウドへのデータ保存能力を高めた際、「他社もデータをクラウドに保管したいのでは?」と考えた点だ。2017年、AWSは175億ドルの売り上げを達成した。


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07年にアマゾンが初めて手がけた電子書籍端末「キンドル」の場合はどうか。前出のウィルケは、取締役会で異議を唱えたことを忘れていない。

「ジェフに『賛成できません。期日に届けられなくなる可能性が高いです。生産量が足りず、注文に追いつけないでしょう。顧客を苛立たせてしまいます。ハードウェアは大変ですよ。それに、うちはソフトウェアの会社です』と言いましたよ」

すると、ベゾスはこう答えたという。

「確かに、それが全部起こってしまうかもしれない。それでも我が社のあるべき将来像とは、ハードウェア作りも得意な会社になることだと思うんだ。だから勉強しなくてはいけない」

文=ランドール・レイン 写真=マイケル・プリンス, gettyimages 翻訳=町田敦夫

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