シャロンは、中堅ソフトウエア会社の営業担当上級副社長。部下の営業担当者らは高給取りながら、営業目標は達成できずにいる。それでも報酬が減らされることはなかった。
この2人のリーダーに共通するものとは何だろうか? いずれも、対立を避けているのだ。
脳は対立にどう対処するか
多くの人は、対立は“悪”であるという考え方を、人との関わり合いや社会人生活から学んできた。成功するためには、楽観的でポジティブな体を装うべきだ、と。しかし対立の回避は、表面的な調和につながる一方で、現実を否定し、真の信頼関係を損なう行為でもある。
対立が起きた時、リーダーの多くは、その対立を解決に導くのではなく、(ボブやシャロンのように)対立への関与を避けようとする傾向にある。人の脳は帰属意識が強いため、このような行動は心地がよい。仲間はずれを嫌うことは、対立を恐れることにつながる。しかし、対立は避けてしまうと、次第にエスカレートしていくものだ。
職場(あるいは人生)で対立や不和に直面した時に人が陥ってしまう状態を、私は“家畜状態”と呼んでいる。人は脅威を感じた時に、この家畜状態に陥る。対立が起きると、大脳辺縁系がつかさどる動物的な生存本能が始動し、結果としてコミュニケーションとチームワークを損ない、攻撃性を煽ってしまう。これらは全て、さらなる問題につながる。
以下に、私たちがすべきことを紹介する。
1. 対立が生じる原因を分析し、対処する
恐らく、以下のような原因が見つかるだろう。
・コミュニケーションが少なかったり、不完全だったりして、期待値のズレや誤解が生まれている。コミュニケーションの有効性、正確性(相手に聞いたことを繰り返させる)、完全性(前提条件や不測の事態を考慮する)を担保すること。
・フィードバックの頻度が少なく不完全で、人々が自分のしていることが正しいのかそうでないのかが分からない状態になっている。
・責任逃れをしても罰則につながらないため、同じことを繰り返してしまう。
2. 対立回避のパターンを理解する
対立の回避には、以下の3つのパターンがある。
・受動的:何もせず、問題が過ぎ去ってくれることを願う。あるいは、他の人間が行動を起こして失敗するのを待っている。
・過剰に迎合的:アイデアや意見を率直に話し合った方が関係性の強化につながるという考えを持たず、波風をなるべく立てないようにする。
・過剰に抑制的:議論や関係構築のための時間を割いていない。
上記のパターンはそれぞれ、時と場所によっては効果を発揮するものの、止められなければ成果やチームの士気、持続可能性に悪影響を及ぼす。ボブとシャロンは、コーチングを通じて自らの対立回避のパターンを理解した。私は次のステップとして、対立により容易に対処できるツールを2人に与える必要があった。