自然、文化を満喫できるフェス
ブリスベンのエコシステムを語るうえで、クイーンズランド州政府の存在も見逃せない。同州は2015年に知識産業創出のためのイニシアティブ「アドバンス・クイーンズランド」を立ち上げた。雇用、教育、投資などの分野にまたがる壮大なイニシアティブで、予算規模はなんと6億5000万豪ドル(約520億円)。昨年3月には、ブリスベンの中心部に巨大なスターアップ・ハブ「The Precinct(管区)」を完成させ、万全の態勢で起業家たちをサポートしている。
そのクイーンズランド州政府の支援を受けて、急成長している起業イベントがある。昨年始まったばかりの「Myriad(ミリアド)」だ。今年5月に開催された第2回イベントでは、昨年の2000人を大きく上回る3000人が参加した。
立ち上げたのは、エストニア出身のマーティン・タルヴァリ。北欧ヘルシンキのテクノロジー・イベント「Slush」の元幹部だ。4年半で世界82カ国を旅した筋金入りのバックパッカーでもある。
「オーストラリアはシドニーやメルボルンだけじゃない。海外のゲストにクイーンズランド州の美しい自然や文化、料理を体験してほしい」と語る。
その言葉通り、リバー・クルーズやキャンプなど、土地の魅力を味わえるプログラムを作った。「ミリアドはただのテック系イベントではなく、フェスティバル(祭り)なんです」。
Slush流のユニークな演出も取り入れた。このイベントのために、シリコンバレーのあるサンフランシスコからブリスベンへの直行便をチャーターし、機内にスピーカー100人と起業家200人を“監禁”した。「投資家の隣に順番に座って、30秒ピッチ(プレゼン)をするんだ。15時間のフライトだったけど、寝ようとする人は誰もいなかったね」と、乗客の一人は笑う。
ブリスベンは、「第2のシリコンバレー」になれるのだろうか。関係者が口々に言うのは、「(米コロラド州の)ボルダーを目指す」だ。ボルダーは近年、起業家の街として世界的に注目されている。生活・教育水準の高さ、小規模なコミュニティなど、ブリスベンとの共通点も多い。
マーティンらが今取り組んでいるのは、オーストラリアの若者たちの意識改革である。今年5月には、高校生や大学生を対象にミリアドの派生イベントを開催した。海外の豪華ゲストらによるセッションを、彼らに無料で体験させたのだ。
ミリアドのクリエイティブ・ディレクターで、メルボルン出身のマリー・ガルブレイスは言う。
「若い人たちにテクノロジーやイノベーションを『かっこいい』と感じてもらえるようにしたい。僕たちは、テック業界のリーダーたちを連れてきて、『ロックスター』にしようとしている。学生たちが、自分もいつかステージに上がって、起業について熱く語りたいと思えるようにね」