データは参考程度、クリエイターが150%の力を発揮できる環境作りを
ネットフリックスは、そのコンテンツの充実度と同時に、その技術力の高さも評価されている。お気に入りのコンテンツが見終わると、すかさず画面下に次のエピソードが現れる。
また、メンバーの視聴傾向をもとに作品をレコメンド。「面白そうだな」と、ついついクリックしてしまうユーザーも多いだろう。ネットフリックスが蓄積してきた視聴動向データによって、ユーザーは検索の手間をかけることなく自分の嗜好にあったコンテンツに出会うことができる。
一方でネットフリックスは幅広いユーザーの好みや視聴傾向などの情報を膨大に手に入れる。そういったデータは、オリジナルのアニメ制作の上でどれだけ活用されているものなのだろうか──。
「“データの声を聞く”ことは、コンテンツづくりのヒントになるとは思います。ただ、ネットフリックスはそういったデータは制作のパートナーであれ外部と共有しません。あくまでプロジェクトの選択に活かすだけ。データはとても役立ちますが、すべてを語ることはない」
データは参考程度に利用するが、最終的にはクリエイターが力を発揮できる環境作りを重要視していると、沖浦は言う。
では、その環境はどのように作り上げているのだろうか。
「これは実写にも通じることですが、僕らはコンテンツ会議でかなりディスカッションを繰り返します。特にアニメの場合は、アイデア自体は面白くても技術的に表現するのが難しく、結果的に絵に描いた餅になってしまうケースもある。ただし、実現可能かどうかまで、しっかりと話し合った上で、GOサインが1度出たものに関しては、以後、クリエイターには一切口を出さないようにしています」
ネットフリックスのコンテンツ責任者はよくこんなことを言っているという。
「データだけで判断しようと思ったら、エクセルシート見れば、ある程度何がウケそうかはわかる。でも、最終的にはつくり手の熱意や創造性が大事。だからスプレッドシートだけでは判断しないんだ」と。
当然、最初にコンテンツの方向性や必要な表現などはクリエイターと共有する。ただ、1度任せたらクリエイターの自由を最大限尊重するのがネットフリックス流のコンテンツ制作だ。その上でクリエイターがより働きやすいよう、最善の環境を考えていく。
そうした土台があって、ネットフリックスのオリジナルコンテンツは生まれていっている。
「時間に余裕があったのにヒットしなかったこともあれば、すごく時間がなくてギリギリの思いで滑り込みでつくったら、すごくヒットすることもある。そこがすごく難しいんですけど、面白いところ。データでは完全に予測できないので、謙虚になりながら、自分なりに見極めて判断していくのが大事だと思っています」