アイルランドの宝くじ「アイリッシュ・ロッタリー」はこのほど、そうした素晴らしい広告の見本となるようなコマーシャルを制作した。そこで伝えるメッセージは、ありふれたものながらも至ってシンプルで、「当せん人数が多い」というものだ。
コマーシャルでは、宝くじの当せんを祝うために雇われた「ザ・セレブレーションズ」という専属バンドが登場し、年々増えていく当せん者に嫌気がさしている様子を面白おかしく描いている。
では、このコマーシャルを(考えすぎや逆行分析なしに)ひも解いてみよう。
何を伝えるかだけでなく、どう伝えるかが重要
この素晴らしいCMから学べるのは、広告を通じて伝えるべきこと(広告の戦略)は重要だが、その戦略を伝える方法の方がはるかに重要だということ。
あなたはこれまで、当せん数の多さをうたう宝くじ広告を何度見聞きしたことがあるだろうか? 恐らく、コンビニエンスストアの前を通り過ぎた回数と同じくらいだろう。要するに、「当せん人数が多い」というのは独創的な広告戦略とは言えないのだ。
しかし、このCMの独創的なアイデアはそれでも大成功を収めている。戦略がありきたりであろうが関係ない。この独創的なアイデアは、使い古された戦略も新鮮に見せるためのものであり、その目的を達成している。
どう考えても肯定的なメッセージである「当せん人数が多い」ことを伝えるため、その事実にうんざりしたバンド「ザ・セレブレーションズ」に焦点を当てることで、とても面白おかしく、かつ意外性があり、視聴者を引き付けるCMが出来上がった。ザ・セレブレーションズの面々は当せんがあまりに多くて疲れ切っているのだ。
しかしこのアイデアで最も素晴らしい点は、ありきたりなメッセージを視聴者にしっかりと植え付けていることだ。このCMでは、たくさんの当せん者がいること徹底的に楽しく伝えており、これを観れば本当に当せん者が多いのだと信じてしまう。このコマーシャルは間違いなく心に残り、シェアされるだろう。
これは、クリエーティブなプロセスがどんなに重要かつ価値のあるものかを示している。戦略は重要だが、面白い伝達方法がなければ、何の意味もない。
今回紹介したCMでは、「ザ・セレブレーションズ」というアイデアがなければ、単に数ある“はずれくじ”の一つになってしまっていただろう。