2017年度学部入学の合格率はわずか2%以下。14年設立だが、ハーバード大学よりも難関と言われるミネルヴァ大学大学院。橋本智恵は17年からデータサイエンスを学ぶ。全てオンラインの授業は、米西海岸の朝9時に始まり、世界各国からクラスメートが参加する。
「各自の発言は記録され、授業も録画される。密度が濃く、緊張感があります」
ミネルヴァ大学は、橋本が目指す教育とテクノロジーのイノベーションの一つ形だ。
「やりたいのは、誰もがどこからでもクリエイティビティを発揮でき、学びたいことを探求できる教育です。私は高校での留学で視野が広がり、自分の悩みが小さい事だと気づけました。昔ながらの留学はコストもリスクもありますが、テクノロジーで、それは変えられます」
祖父母も両親も教員、という家庭で育った橋本だが、中学入学ごろから型にはめ込まれる日本の教育に馴染めなかった。
「同じ制服を着て、男子、女子と分けられますよね。『毛が濃いね』『三つ編みが太いね』と些細な違いを指摘する同級生の言葉が嫌で、自分らしくいられないと思いました。辛かったです」
学校は休みがちで、1カ月間休んだこともあった。辛さから橋本を解放したのが高校2年生の時のオーストラリア留学だ。「自分らしくていい、むしろ自分が好きなことを主張するよう求められる新しい世界に圧倒されました」
大学では国際関係学を専攻。教員免許取得は、インドでの半年間のインターンシップと引き換えに諦めた。卒業後は、グローバルな仕事を志し、ソニーに入社。家電量販店の営業から始め、上海勤務を経て、東京でグローバルマーケティングに携わった。転機は5年前。社内結婚した夫のアメリカ転勤が決まった。
「いつか教育に携わりたい」という思いもあった橋本は、「自分探しをしたい」と退職。しかし、ソニーが教育分野に進出すると聞き、サンフランシスコで現地スタッフとして加わることになる。
市場調査で様々な教育関係者と会ううちに、新しい教育の実現のため試行錯誤する人々と知り合うようになった。「自分は何ができるのか」と、橋本は教育とテクノロジー分野で働く多様な女性リーダーをつなげたいと「EdTechWomen」というコミュニティの日本支部を創設した。
様々なコミュニティに出入りする中で気づいたことがある。よりフェアでオープンな教育の仕組みをつくるには、テクノロジーへの理解が必要だ。データサイエンスを学ぶため、大学院入学を決めた。
橋本智恵の転機
・オーストラリアに1年留学。小さな悩みや辛さから解放される。
・インドにインターンシップ。さらに広い世界と自分の運命を求めるようになる。
・夫とサンフランシスコへ。教育とテクノロジーの可能性に目覚める。
橋本智恵◎ミネルヴァ大大学院生。2007年津田塾大学を卒業し、ソニー入社。サンフランシスコで新規教育スタートアップ事業に従事。米国発教育テクノロジー分野の女性ネットワークEd Tech Woman Tokyoの創業者。