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2018.09.05 06:30

低金利時代の銀行を追い詰める「PEファンド」の脅威


では、これはどのくらいの規模なのだろうか? 銀行が大量の融資のプロを投入して、10行の国際協調融資の大円団を組んだ事例(ベルギーの洋上風力発電所建設)でも、1行あたり約100億円だった。それと比べても、数千億円を1つのファンド会社で融資し、毎年、業界で6兆円も貸し込むということの規模の大きさが想像される。

つまり本件はこういうことだ。堅実な立場からなんとか無理をして懸命に審査部を説得して融資する銀行スタイルと、もともと融資ではなく資本参加をして、会社の上場とともに大きく売り払い、10件に9件といわれる失敗案件を笑い飛ばせるだけの大儲けするというところで勝負している者との決定的な文化の違いだ。

前者は低金利でぎりぎりまで担保や保証人にこだわり、後者は資本参加しているので担保などは正直どうでもいい。そのかわり、2桁金利などはざらという高利の融資となる。

もちろん、上場を見込めない企業に対して、PEファンドが手を貸すことはない。だから、純粋な中小企業への支援はあいかわらず銀行に頼ることになるが、そうであるならば、本来、銀行でなくとも信用金庫や信用組合でこと足りることになり、やはりPEファンドの参入で銀行業のパイが小さくなっていくことには間違いない。

ドイツ銀行がベガスでカジノ経営

以前、このコラムで、「訴訟ファンド」というとんでもないファンドスキームを紹介したが、世の中の変化に応じて自在に性格を変えられるファンド(たとえば買収ファンドや再生ファンドなど)に対し、巨大戦艦を戦前のルールのまま操業しているかのような銀行は、「新たな知恵」を求められている。

しかし、新たな知恵などない。あるはずがない。銀行はファンドと競争してはいけないのだ。銀行のお金はリテール、つまり預金者のお金であり、ファンドのお金は投資家のお金なのだ。どちらのお金も大切だが、預金者のお金でギャンブルをしてはいけない。

ファンドが大儲けするのを横目に、たとえ業際をどんどん浸食されることがあっても、支店や社員を大幅に減じることになっても、銀行は粛々と銀行業務を果たすべきだ。預金者は、銀行に証券会社やファンド、生保や損保と利益率競争をしてもらいたいなどと少しも思っていないからだ。

筆者の住むラスベガスの事例でいえば、なぜかドイツ銀行がカジノ建設への融資を契機に、なんと銀行自身がラスベガスで3000室もの巨大カジノのオーナーになって商売をしたという「新しい知恵」もあったが、銀行員がカジノを経営してうまくいくはずなどない。ドイツ銀行は案の定カジノ経営から撤退した。

「リスクを取ったから成功した!」と胸を張る人の前で、リスクを取るべきでない職業の人が小さく見えることは仕方がない。そういうことではなく、守るべきことを守っていることで社会の期待に応えていることに誇りを持つべきだ。

連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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