それでは、米国のクラフトビール業界は今後、どう発展していくのだろうか? 醸造業者らは、さらなる成長を促すために、どのようなマーケティング戦略を取るのか? 同協会のポール・ガッツァ会長はこう語る。
「マーケティングの視点からは、ローカル(マーケティング)が購買意思決定の大きな原動力となり続けている。さらに、飲酒可能年齢に達している若年層は、今まで試したことがないものに大きな興味を持っている。このような経験的要素は、諸刃の剣だ。人々は新しいブランドを試したがる一方で、醸造者や販売店にとってはブランド構築が難しくなる」
「マーケティング以外の部分としては、より大きな市場アクセスの問題がある。クラフトビールの場合、店頭の棚や卸売業者の倉庫は既に飽和状態にある。大手小売店の中には、大規模な醸造業者の一存で、どの業者がスペースを得られるかが決まるところもある」
ガッツァは、クラフトビール業者の買収が相次ぎ、「クラフト」をポートフォリオの一部として取り入れるブランドが増えていることを指摘した上で、「販売スペースを確保するには、ビール愛好家の支持を得るよりも、醸造業者や卸売業者の後押しを得た身売りブランドとなる方が簡単だ」と語った。
クラフトビール業者が活用するローカルマーケティング
ラスベガスのクラフトビール業者テナヤ・クリーク・ブルワリー(Tenaya Creek Brewery)でソーシャルメディア責任者を務めるコナー・モリスは、顧客に自社製品の特徴をしっかり理解してもらうことに注力している。「顧客に醸造の舞台裏をできるだけ知ってもらえるよう、写真や動画を使って、醸造者が新しい原材料を吟味するところから、ビールをボトルや缶に詰める最終工程までの様子をシェアしている」(モリス)
ブランド強化するために重要なもうひとつの要素は、魅力的な店づくりだ。「とてもリラックスしてのんびりとした雰囲気で、入ってきた瞬間に友人や家族に囲まれているような感覚になる」とモリスは言う。「来店して素晴らしいビールを飲み、帰るころまでには友だちが増えている」
ブルワーズ・アソシエーションのガッツァ会長いわく、テナヤ・クリークのようなアプローチは、差別化のポイントとして広く使われている。「バーを構える醸造業者は、来店した人と密接な関係を築くのがとても得意だ。客はブランドとのつながりを感じ、他の店でもそのブランドを求めるようになる」