独政府の決定は、連邦憲法裁判所による昨年の判決を受けたもの。法案が議会でも可決されれば、新法は今年末までに施行され、ドイツは欧州で初めて性別の多様性を公式に認める国となる。
仏週刊誌ルポワによると、新法の施行後、親は出生届を提出する際、男・女・ディバースの3つのボックスから選ぶことになる。「ディバース」は、出生証明書からパスポート、運転免許証まで、当事者に関する全ての行政文書に記載される。
きっかけとなった裁判は、女性として登録されたインターセックス(性分化疾患のある人)の原告が起こしたもの。通常、女性にはX染色体が2つ、男性にはX染色体とY染色体が1つずつあるが、原告は染色体検査の結果、X染色体が1つだけあることが判明。出生記録の性別を第3の性に変えようとしたができなかったため、この差別的制度の廃止を求めて訴えを起こした。
連邦憲法裁判所の判決では、現在の制度は個人の権利を侵害し、差別禁止法に違反していると指摘。当局に対し、第3の選択肢を設けるか、性別登録制度を全面的に廃止するよう命じた。ルポワ誌によれば、新法の下では、これまで男女の性別を決めるため必要とされていた専門家による報告書が不要となり、「性のアイデンティティーは各自の選択によって決まる」ことになるという。
ドイツでは、性的特徴が「男性」と「女性」のどちらとも言えないインターセックスを自認する人が推定8万人~12万人存在し、年間300~500人の子どもが性器の手術を受けている。
同国はこれまで、性の問題において最前線に立ってきた。2013年には、明確に性を決定できる身体構造を持たずに生まれた子どもについて、新生児登録用紙の性別欄記入が不必要になった。こうした子どもは将来、自分で自由に性別を決めることになる。
新法では不十分との声も
アンゲラ・メルケルの保守連立政権で家族相を務める中道左派のフランツィスカ・ギファイは今回の法案について、「男性でも女性でもない性のアイデンティティーを持つ人の法的認知に向けた重要な一歩」だとした。一方、トランスジェンダー・ヨーロッパ(Transgender Europe)など性問題に関する活動家団体は、新法は非常に強い象徴的意味を持つものの、十分な措置とは言えないと訴えている。
英ロイター通信によると、性的少数者(LGBT)の活動家らは「出生時の性と性自認が一致しない人が、公式文書に載せる性をより簡単に変えることができるような新たな法規制」を求めている。独レズビアン・ゲイ連盟(LSVD)の広報担当者は同通信に対し、「トランスジェンダーの人にとって、登録された名前と性別を変えるときに直面する障壁という点では、何も変わっていない」と述べた。
隣国のオーストリアでは今年6月、憲法裁判所の判決により、国民は男性・女性以外に希望する性別を公式記録に記載できるようになった。同国の場合、男性または女性での登録が必要と明記した法律はないため、法改定は必要なかった。第3の性を選べる国には他に、ニュージーランド、カナダ、インド、ネパールがある。