ビジネス

2018.08.21 08:30

「魔法の粉」で3.4兆円のリチウム電池市場に挑む元テスラ社員

左から)シラ・ナノテクノロジーズCEOのジーン・ベルディチェフスキー、グレブ・ユーシン、アレックス・ジェイコブス

左から)シラ・ナノテクノロジーズCEOのジーン・ベルディチェフスキー、グレブ・ユーシン、アレックス・ジェイコブス

シラ・ナノテクノロジーズ(Sila Nanotechnologies)が8月16日、7000万ドル(約77億円)の資金調達を発表した。これにより、同社の評価額は3億5000万ドル(約380億円)に達した。
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同社が狙うのは、現在も成長中のリチウムイオン電池市場だ。もしかすると彼らは、市場のかなりのシェアを握ることになるかもしれない。

「僕たちが電池技術で可能にしたいことは、1990年代にインテルが半導体やパソコン産業で可能にしたことと同じだと思います」。シラ・ナノテクノロジーの創業者兼CEOであるジーン・ベルディチェフスキーは胸を張る。

彼が手に持つガラス瓶の中の“黒い粉末”の詳細については明かすことはできないが、シリコンが含まれていることは書いても構わないそうだ。そして、もしこの物質が期待通りの働きをすれば、リチウムイオン電池のエネルギー性能を40%向上させることになることも。
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シラ・ナノテクノロジーズの本社は一見、サンフランシスコ・ベイエリアの典型的なスタートアップのオフィスのようだ。オープンフロア型のスペースに、アタリ社のゲームの名前がつけられた会議室、ヘルシーな軽食が常備されたキッチン、というように。

しかし、エントランスを抜けて扉を開けると、そこにあるのは何列ものサーバーラックでも、テーブルサッカーの台でもない。代わりに工業用の研究室があり、無塵室で働く白衣の従業員たちが見える。また、ガスの供給管やコンピュータ、化学機器につながれた容量2リットルの加熱炉が並んでいるほか、巨大な謎めいたシリンダーをいじっている建設作業員の姿もある。

同社は、サムソン・ベンチャーズやベッセマー・ベンチャー・パートナーズ、イン・キュー・テルなどから、1億ドル超の資金を調達している。また、香港拠点のアンペレックス・テクノロジーと提携しており、早ければ2019年には携帯電話用やスマートウォッチなどのウェアラブル機器用の電池にこの粉末が採用される予定だ。

BMWとも組んでおり、2020年代初頭には同社の車載用電池に搭載される可能性がある。8月16日には、サター・ヒル・ベンチャーズ主導の投資ラウンド、シリーズDで7000万ドルを調達。独シーメンスの投資部門ネクスト47らも参加し、累計調達額は1億2500万ドルに達した。

この粉末が成功すれば、かなりの見返りが見込まれる。一定の容積に対してより多くの電力を蓄えられる電池は、より走行距離の長い電気自動車やより充電頻度が少なくてすむ携帯電話を意味する。リサーチ会社のアイディーテックエックスによると、車載電池市場だけをとってみても、今後10年以内には年間1250億ドル規模になるという。

だが、ライバルもたくさんいる。電池そのもの、あるいは電池の部品を再設計している企業は数十社あり、多くはスタートアップ企業だが、一部はトヨタやダイソンのような大企業だ。この「電池開発大会」で最終的に優勝するのは、今日の電池の特徴である液体電解質を必要としない全固体電池だ。だが、この電池の競争相手としての脅威は、今のところごく小さい。

シラが取り組んでいるリチウムイオン電池の再設計は、全固体電池ほど野心的ではない。同社の粉末は、既存の電池技術で使われているグラファイト(黒鉛)を置き換えるものだ。

エネルギー貯蔵分野に特化したリサーチ・コンサルティング会社、ケルン・エネルギー・リサーチ・アドバイザーのマネージング・ディレクター、サム・ジャフィはこう指摘する。「シラが他社を大きくリードしているのは、ひとえに、既存の工場や製造機械をほぼそのまま使える“ドロップイン式”で生産されることになるからです」
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編集=岩坪文子 翻訳=木村理恵 写真=ティモシー・アーチボルド

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