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2018.08.19

エンタメと地方の組み合わせは何を生み出すのか?

(左)吉本興業共同代表取締役社長CEO 大﨑 洋(右)下川町長 谷 一之

2018年7月2日。吉本興業が新宿にある東京本部で記者会見を開いた。会場がほぼ満席になるほど集まった報道陣、最前列にはカメラマン、最後列にはテレビカメラがずらりと並び、お笑いコンビ・千鳥が司会進行をしながら進んでいく。

今回の記者会見、普段の吉本興業のイベントとは少し毛色が違う。タイトルは「吉本興業株式会社×北海道下川町 SDGs推進における連携協定」。

下川町? SDGs? いったい吉本興業は何をしようとしているのだろうか。

吉本興業と北海道下川町の出会いは、昨年12月に遡る。場所は首相官邸。縁のない両者を同じフロアで引き合わせたのは、「第一回ジャパンSDGsアワード授賞式」だった。

SDGsとは、2015年9月の国連サミットで持続可能な世界を実現するために採択された国際目標である。「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」「住み続けられるまちづくりを」など、2030年までに実現したい17のゴールが設定されている。

日本政府はSDGsの達成に向けて、優れた取り組みを行う企業・団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」の創設を2017年6月に決定。その第1回授賞式が12月に首相官邸で行われたのだ。

移住者が増加する町

最近では世間的な知名度も上がり、取り組む団体や企業も増えてきたが、SDGsにいち早く取り組み、先駆け的な存在になっている小さな町が下川町だ。旭川から車でさらに2時間、東京23区ほどある面積のうち9割は森林に覆われ、冬にはマイナス30度を記録することもある。人口は3400人。他の例にもれず、高齢化率約4割の少子高齢化が顕著な町である。

しかし、下川町は小さいながらも、ユニークな町づくりを行ってきた。まず、「レジェンド」の愛称で知られる葛西紀明選手を筆頭に、これまで6人をもオリンピックに送り出してきたスキージャンプ選手の育成、広大な森林を活用した林業の推進、年間の寒暖差が60度以上にもなる気候を活かして甘く育てたトマトや、トドマツから抽出した“森の香り”アロマなどの特産品。いずれも町にもともとあったものを活用した取り組みである。


トマトやアロマなどの下川町特産品

積雪量や寒さ、森林の多さなど、一見人々の生活の重荷になりそうなものを、逆にうまく活用して「暮らしやすい環境」に変えてしまったのだ。これが移住者の増加という逆転劇を生んでいる。その成果を評価され、昨年12月、「ジャパンSDGsアワード 内閣総理大臣賞」を受賞した。

そんな下川町と組んだのが吉本興業である。
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文=工藤真由

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