ビジネス

2018.08.07 17:00

仏料理の巨匠ロブションが死去 「信念」貫くビジネス戦略で活躍

ジョエル・ロブション(2017年撮影、Arnold Jerocki / Getty Images)

ジョエル・ロブション(2017年撮影、Arnold Jerocki / Getty Images)

世界的に知られたフランス料理のシェフ、ジョエル・ロブションが8月6日、73歳で死去した。ロブションはその料理によって、多くの人々の記憶に残されている。だが、その“重層的な”ビジネス戦略もまた、彼が提供してきた料理と同様に、素晴らしいものだったと言えるかもしれない。
-->
advertisement

1989年に美食ガイド「ゴーエミヨー」から「今世紀の料理人」に選ばれたロブションが手掛けるレストランは、「ミシュランガイド」でこれまでに合計31個の星を獲得している。

ロブションが立ち上げた中には、「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」と名付けたよりカジュアルなレストランもある。カウンター席で気軽に、新鮮な食材で用意されたアラカルトのメニューを楽しむことができる店だ。


ラスベガスのMGMホテルにあるラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション(Photo by Getty Images)
advertisement

「ラトリエ」のコンセプトの基本にあるのは、長時間をかけて何皿もの料理を堪能するコースではなく、日本の「弁当」やスペインの「タパス」などのように小量ずつ提供する料理を試してもらいたいとの考え方だ。

レストラン業界に「ファインカジュアル」のトレンドが広まる何年も前にこのコンセプトを取り入れたロブションはよく、ラトリエのビジネス戦略は自身が手掛けた中で最も冒険的なものだったと述べていた。

「主役」は食材

ロブションのウェブサイトには現在も、欧州、アジア、北米の12都市にある十数軒のレストランの名前が掲載されている。ニューヨークの1店舗は、昨年開業したばかりだ。

ビジネスにおいてはその他の著名シェフたちと同様、ロブションもさまざまな機会を捉えてきた。東京とパリ、レバノンの首都ベイルートには、ロブション・ブランドのワインセラーがあり、ワインや食品を販売している。

数多くの料理本を出版したり、ビデオを販売したりしているほか、フランスでは自身のテレビ番組を持っていた。米国のリアリティ番組「トップ・シェフ」にゲスト審査員として登場、出演していたシェフたちを驚かせたこともある。


「Food & Life」のサイン会にて(2015年撮影、Photo by Getty Images)

一方でロブションは、香港やロンドンなど、世界の金融センターには店を構えているものの、彼に師事したゴードン・ラムゼイや、ノブ・マツヒサほど多数の店舗を開業することはなかった。ロブションなら実際に出店した都市にとどまらず、容易に事業を拡大することができたはずだ。

ロブションの慎重なアプローチの理由には、料理の主役は食材だという信念と、最高品質の肉や野菜、シーフードへのこだわりなどがあった。「農場から食卓へ」という考えが世界的なトレンドになる以前は、こうした考えに基づき料理を提供するには多額の費用がかかり、(レストランは)地元で食材を調達できる場所になくてはならなかった。

ロブションは常に、自らの事業に厳しく目を光らせていた。そのため、ビジネスによって彼の魅力が減じられることはなかった。複数の女性たちからセクハラ被害を訴えられ、料理の “帝国”を崩壊させた米著名シェフのマリオ・バターリとは異なり、ロブションは自らの名声を広めたり、手掛けたスナックの広告をインスタグラムに掲載したりするために、複数のライセンス契約を結んだりはしなかった。

振り返ってみると、ロブションはじっくり時間をかけて事業を拡大してきた。当初はフランス国内でのビジネスを重視。パリ以外ではタイユバンとともに、東京に「タイユバン・ロブション」を開業した。50歳になった1995年には、後進の育成に専念したいなどの理由で引退を表明し、注目を集めた。だが、復帰後にはマカオをはじめ各地で複数のレストランを開業するなど、さらに積極的に活動していた。

編集=木内涼子

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事