6月にサンフランシスコで、シリコンバレーの将来についての会議に出席した。この会議で、アメリカの将来にとって、技術とイノベーションの中心であるシリコンバレーと、アメリカの政治と政策の中心であるワシントンDCの関係が、いかに重要であるかを考えさせられた。
シリコンバレーで働く人の多くは、エンジニアか科学者であり、技術と市場経済のみで、製品開発、企業の競争力強化、経済成長が可能になると信じている。彼らから見ると、「政府」は、肥大化した官僚機構で、税金の無駄遣いにしか見えない。こうした考えの人々は、政府の大幅縮小を望んでいる。また、シリコンバレーでは、政府は自分の仕事や日々の生活にまったく関係ないと考えている人も少なくない。
他方、ワシントンDCで政策決定に携わる人々のなかには、特に議会関係者には、シリコンバレーの高度な技術革新が、個人や社会にどれだけ多大な影響を与えているかに気づいていない人もいる。技術革新の影響は、健康、教育、労働、プライバシー、交通、余暇、外交、戦争など幅広い分野に及んでいる。さらに、これらの新技術の出現が、法律上や倫理上に、新たな難題を突き付けているのである。
このワシントンDCとシリコンバレーの間の認識の乖離は、アメリカ社会にとって問題となっている。第一に、ワシントンDCでつくられている法律・規制・政策、すなわち、租税・通商・競争・特許・移民等の政策が、シリコンバレーの活動に重要な影響を与えるからである。第二に、ワシントンの政策決定者が新技術を理解しないことには、その便益の最大化と社会に対するリスクの最小化を可能にする法律・規制・政策の策定が不可能だからだ。アメリカの競争力強化には、両地域の意思疎通と相互理解が不可欠である。
日本では、政・官・民が関東と関西に集中しており、この意思疎通の問題はアメリカほどないと思われる。しかしながら、日本も、競争力維持への課題は少なくない。
7月に参加したスタンフォード大学での会議では、日本の県知事6人が、各県の経済発展推進のためにシリコンバレーの経験から学びたいとの希望を述べていた。
会議では、スタンフォード大学教授が、シリコンバレー成功の要因について説明し、カリフォルニア州の58郡のうち(シリコンバレーのある)サンタクララ郡は、外国生まれの住民の比率が最も高いことを強調していた。つまり、シリコンバレー・モデルの成功は、世界中から才能が集まった移民の貢献が大きいということである。
県知事6人は、日本の人口問題と、その対策として、女性、高齢者、ロボットの活用に言及した。しかしながら、「外国籍人財」の貢献の可能性については、誰も触れなかった。
日本は、教育水準も高く、優秀な人財に恵まれた国である。しかし、多様な能力が求められる今後の世界経済では、外国籍人財に頼らずに日本が国際的に競争力を維持することは難しい。これからは、先見性のある日本のリーダーは、高度なプロフェッショナル人財をはじめ、外国籍人財の登用を積極的に進めるべきである。これは、単に必要な仕事の担い手の確保だけではなく、創造性、イノベーション、成長を促すための多様性をもつ環境をつくり出すためでもある。
シリコンバレー成功の要因のひとつが、アメリカ以外で生まれた人々の貢献であることはよく知られている。有名な例としては、インテルのアンドリュー・グローヴ(ハンガリー)、eBayのピエール・オミダイア(フランス)、グーグルのセルゲイ・ブリン(現ロシア)などがいる。他の先進諸国と同様に、日本が外国籍人財に門戸を開くことを期待するのは現実的ではない。またそうした国々では、多様性ゆえの課題もある。しかし、日本が外国の才能に門戸を閉ざし続けていけば、日本は世界的に競争力や存在感を失っていくリスクを冒すことになろう。