もちろん、楽しむだけではない。ワインを学びたい人たちに向けた催しもある。
ボルドーワインスクールのイベントブースでは、ちょっと趣向を凝らしたブラインドテイスティングや、アサンブラージュ講座、マリアージュ講座、夜になると音楽とともにテイスティングを楽しむRock’n’Wineというイベントも行われ、こちらも結構な盛り上がりであった。世界中からワイン好きが集まる大イベントを、しっかりとワイン教育に繋げるあたりはさすがである。
Bordeaux Fête le Vinは朝10時から始まり、1日中ワインを楽しむことができる。6月のヨーロッパは日が長い。日本の感覚でいう「もう夕方かな?」という時間が、だいたい22時過ぎだ。そんな時間まで明るいのだから、1日を締めくくる花火だって打ち上がる時間がだいぶ遅い。23時半からガロンヌ川で打ち上がる花火が終わる頃には、もう日付が変わる手前だ。
これだけの大規模なイベントは、他の街ではなかなか開催できないないだろう。ワインとともに発展し、街の文化の中心にワインが根付くボルドーだからこそ実現できるのが、このBordeaux Fête le Vinなのである。
ぶどう畑を前にして飲むワイン
今回、最も印象に残ったのは、人々のワインとの向き合い方だ。われわれ日本人のなかには未だに「ワインというと形式張ったイメージがあり、気軽に飲めない」という人も多いのではないか。しかしBordeaux Fête le Vinを訪れた人たちは、実に誰もが気軽にワインを楽しんでいた。
僕らだってそんな彼らのように、自分の好きなように、好きなスタイルでワインを飲めばいいのではないか。近年はボジョレ・ヌーヴォーだってペットボトルで売られる時代だ。ワインとは本来、そのくらいカジュアルに楽しんでもいいものなのだ。
日本のいわゆるワイン愛好家には、「ちょっと変わった人」が多い。そのような人たちに、口うるさく作法や飲み方について一方的に「ご教示」された経験がある人もいるだろう。しかし、いちいちそんな声に耳を傾ける義務なんて一切ないのである。
ちょっとワインが口に合わなかったら、たとえばグラスに氷をひとつ落としたっていい。いちばん大事なことは、自分が美味しく楽しくワインを飲むことなのだ。仕方なく嫌々付き合ってワインを飲むようでは、手塩にかけてワインをつくった生産者もいい顔はしないだろう。
もちろん、ワインのポテンシャルを最大限に引き出すためには、ソムリエのように専門知識を持った人も必要だし、ワインと料理のマリアージュについても、的確なアドヴァイスをしてくれる人がいるとありがたい。そのような人たちの力を借りれば、食事の時間がより素晴らしいものになるだろう。
ボルドーのワイナリーを訪ねていていつも思うのだが、ぶどう畑の美しい風景を前にすれば、どんなワインを飲んでもうまい。ワインについての細かい蘊蓄を聞くのも確かに楽しいが、そんなことよりもなによりも、ワインの味わいを最も左右するのは、飲む時の気分なのではないかという気がする。
連載 : 世界漫遊の放送作家が教える旅番組の舞台裏
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