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2018.06.28

異業種からの転身で気づいた 「Jクラブ経営」の危うさ (前編)



SC鳥取・社長室事業戦略特命部長 高島祐亮

利益が上がっても、試合に勝たなければ評価されない


──サッカークラブという新たな環境で働いてみて、驚きや発見はありますか?

高島:Jクラブの運営はお金を稼ぐだけでは評価されないこと、でしょうか。

江藤:確かにそうですね。これまでは利益を上げれば褒められたのに、サッカーは勝利がともわないとダメ。栃木SCが試合に負けて、「えとみほのせいだ!」と言われることもありましたが、フロントがうまくいっていてもチームが勝たないと意味がないという点は、とても難しいところです。

高島:例えばIT企業のサーバーエンジニアなど、インフラに携わる人は「サービスを止めないこと」が仕事です。多くの人が、快適にサービスを使える環境を常に整えているということはとても賞賛されるべき価値なのに、我々の目にとまることはないからそれが当たり前のものとして存在している。クラブのフロントも同様のことが言えます。

江藤:常に消滅の危機に瀕しているといってもいいですね。

──どういうことでしょうか?

高島:鳥取県の人口は56万人ですが、現在は減少の一途をたどっている。その状況下で、スタジアムの集客を急成長させるのはかなり難しいといえます。

また、J2とJ3のチームではJリーグからの分配金が1億円以上違いますし、カテゴリーが下がると露出も少なくなるのでスポンサー収入減少につながる。特に地方クラブには母体となる親会社を持つところは少ないので、常に不安定な経営状況にさらされています。ガイナーレ鳥取は予算が4.5億円ですから、分配金を1億円と仮定しても予算の20%以上にもなります。

江藤:予算が20%以上も削られたら、普通の会社ではリストラが起きますからね。一般企業に置き換えて考えると、ありえない状況です。その中でもチームは勝たないといけないし、負けると経営状況に直結する。難しい仕事だと改めて感じています。

Jクラブの収入源はすべて不安定

──不安定さと常に直面しつつ、安定的なクラブ運営をしていかなければいけない、と。

高島:先にも述べたように、Jクラブの収入源は「3本柱」に支えられています。ただ上述の通り、スポンサー、チケット、グッズの収入は全てチームの結果とほぼ連動するものなので、これらの収入源だけを見ているだけでは安定しません。

江藤:試合の勝ち負け、リーグの昇格降格に依存する収入源しかないって、企業としてすごく不安定ですよね。勝ち負けはコントロールできないし、チケット収入は天候に左右されます。雨が多いだけで、入場者は2〜3割減ってしまう。アンコントローラブルな面が多く、そこに頼りきれないんです。

高島:まさにそうですね。だから今後は3本柱に頼らない、"第4の柱"がJクラブには必要だと思います。新しい収益の構造を生み出すこと。そうすればクラブ、そしてJリーグ全体がより発展されていくはずです。(後編は6/29公開予定)



江藤美帆◎栃木サッカークラブ マーケティング戦略部長。スナップマート非常勤顧問。2004年、英国企業のコンテンツライセンス管理会社を設立。10年に事業譲渡後、VR系ITベンチャー、外資系IT企業などを経てオプトに入社。ソーシャルメディアの可能性を探求するメディア「kakeru」の初代編集長、エンジニアイベント「市ヶ谷Geek★Night」などを立ち上げる。15年10月「Snapmart(スナップマート)」を企画開発。18年3月、スナップマート代表を退任し非常勤顧問に就任。18年5月より現職。

高島祐亮◎SC鳥取 社長室事業戦略特命部長。入社前は、2つのIT企業でインターネットメディアをはじめとした50以上の新規事業立上げから業務提携、経営企画部門の立上げ等に携わり、2社連続上場にかかわる。2015年に「Jリーグヒューマンキャピタル(現スポーツヒューマンキャピタル)」で学んだ後、17年7月から現職。 @takashima475

文=田中一成 写真=小田駿一

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