この報道の後、金融庁(当局)は22日金曜日の夕方に、複数の仮想通貨交換業者に業務改善命令を出した。既に伝わっていた内容とほぼ同じだったことから、ビットコイン価格に対するインパクトは今のところ限定的となっているが、価格への影響を言及するより、今は仮想通貨業界の今後を議論するべきだろう。
仮想通貨交換業(登録業)を手掛けるフィスコ仮想通貨取引所を傘下に持つフィスコデジタルアセットグループの代表として、今の状況を「業界全体のボトム」としなくてはならないと強く思う。
そもそも、こうした当局による規制・是正の強化の流れは、1月26日の大手仮想通貨取引業者のコインチェック(みなし業者)による世界最大規模の資金流出事件が契機となっている。事件発覚後の2月、当局は当時16社あったみなし業者を対象とした立入検査を実施したほか、同じく16社ある登録業者の一部にも立入検査を行った。
多くのみなし業者に業務改善命令や、業務停止命令が出たのは既報の通りで、自主的に交換業登録の申請を取り下げる交換業者が相次ぐなか、6月7日には交換業者のFSHOの登録を拒否する姿勢を見せた。
政府がフィンテックという新しいテーマを掲げるなか、仮想通貨業界に対して、当局は官主導によるルール作りではなく、事業者による「プリンシプル」ベースのルール作りを求めていたが、結果として事業者側はその要請に応えることはできなかった。
当局発表の様々な文書を見ると、不十分な内部管理体制のまま取引所運営を行うなど、健全な取引所運営とは程遠い状況にある取引所が複数存在した。証券、銀行と比較すると天と地ほどのコンプライアンス意識だった言えよう。増加の一途をたどる顧客数に体制が対応できないまま事業展開をしてしまった結果、大きなズレが生じてしまったわけだ。
強い上昇相場で売買件数が急増した2017年のように仮想通貨ビジネスで稼ぐことが難しくなったなか、コインチェックの一件で当局による規制が強まったことから、高い収益性に目を奪われて参入した事業者はかなり焦ったと思われる。内部管理体制やアンチ・マネー・ロンダリング(AML)、利用者保護といった金融業界では当たり前の体制を作り上げるには、それなりのコストがかかる。
体制作りに欠かせないのは、金融出身でそのジャンルの知見を持った人材を集めるしかない。体力のないみなし業者や、体制作りが後手に回った業者、金融を甘く見ていた業者は、こうした視点が欠けていたのだろう。
仮想通貨ビジネスは決して簡単に稼げるビジネスではない。金融商品取引法(金商法)のカテゴリー外ではあるが、体制作りには金商法や改正資金決済法、そして、今年2月に発表された「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(案)」などに準じたガバナンスが必要だと考える。
仮想通貨業界は、証券、銀行並みのコンプライアンスが必要となっていることに早く気付くべきだろう。仮想通貨交換業を手掛ける者としても常に意識しておかなければならないことだ。
なお、今週のコラムは価格に対する言及が少なくなってしまったが、想定レンジは一応入れておく。今回の発表に対する影響は限定的と考えるが、積極的な押し目狙いも入らないと見て、68万円から78万円のレンジを想定する。
連載:「仮想通貨」マーケット実況
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