移動をなくす、「幽体離脱」のテクノロジー

5月29日に発表された「MODEL H」とテレイグジスタンスの富岡仁 共同創業者兼CEO

5月29日、テレイグジスタンス(Telexistence Inc.)とKDDIによる「遠隔操作ロボット量産型プロトタイプMODEL H」の記者発表でのことだ。

「このなかで小笠原諸島に行ったことがある人、いますか?」

軽く200人をこえる記者会見場で、テレイグジスタンスの共同創業者兼CEO、富岡仁がステージ上から質問すると、手を挙げたのはわずか3人。

ステージ上で富岡が続けて、こう話す。

「2011年、小笠原諸島は世界自然遺産に認定され、観光資源に恵まれています。しかし、アクセス手段は客船だけで、毎日出航しているわけではありません。所要時間は片道24時間かかります。100kmという距離が小笠原諸島での体験を難しくさせているのです」

富岡が提案したのがTELEXISTENCE TRAVEL。「MODEL H」はKDDIグループの伝送技術を活用。ロボットを自分の「分身」として、遠いところで活動させることを可能にした。つまり、距離や空間を超えて、分身のロボットを通じて、視覚・聴覚・触覚などの「体験」を自分に伝えることができるのだ。2018年夏、このロボットを使って小笠原諸島の体験ツアーを始めるという。

「距離を超えた体験」とは何か?

「MODEL H」の開発段階から密着したForbes JAPANによる特別レポートを紹介しよう。

実は、海外でもテレイグジスタンスに早くから注目し、驚きの声をあげた人たちがいた。話は2年前の2016年8月3日に遡る。

この日、Xプライズ財団のビジョネアーズ・プライズ・デザインというチームがお台場にある日本科学未来館を訪ねた。非公開の研究棟にある一室で、彼らはヘッドマウントディスプレイを装着。手袋をつけて体を動かした瞬間、驚きの声を上げた。「まさに、これだ!」

手を自分の目の高さまで上げる。しかし、目の前に見えるのは自分の手ではない。研究室に置かれた「テレサV(ファイブ)」の手だ。テレサVは「MODEL H」の一代前のロボットである。


テレサV(撮影協力:慶應義塾大学 photograph by Jan Buus)

ヘッドマウントディスプレイをつけた者が動くと、ロボットも同じ動きをする。ヘッドマウントディスプレイで見る光景は、テレサVの目から見える景色だ。テレサVが「私」を見れば、私の目には「私」が見える。そう、私の身体がもう一つ、ロボットとして存在する。つまり、「私の分身」なのだ。

「動き」「視界」だけではない。ロボットが手で感じる「触覚」が、同時に自分の手に伝わってくる。
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文=藤吉雅春 写真=岩沢蘭

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