4月25日に開催された授賞式では、受賞企業のほか、審査員から評価が高かった会社にも優れた商品とともに登場してもらった。
自分の不満を解消するためにつくった
「正直、うちには自慢できるような技術はありません」
2016年末発売の3Dプリンター「Qholia」が数カ月待ちのヒットを続ける久宝金属製作所の代表取締役・古川多夢の言葉だ。
久宝金属は創業者である古川の祖父の代から下請けをせず、台所雑貨や飾り棚、ペットボトル潰し器など家庭で使えるちょっとしたアイデア商品を自社ブランドで手がけてきた。正社員は2名、パートが約10名と会社の規模もかなり小さい。そんな同社がなぜ3Dプリンターで注目を集めるのか。まず、古川は3Dプリンターを作った理由を語った。
「最初は自社製品の試作用につくったんです。ペットボトル潰し器を製造した際に使用した市販の3Dプリンターがあまりに使いづらく、改造を重ねました。試しに名刺入れを作ってみたら、取引先にその精度に驚かれて『それをつくった3Dプリンターがほしい』と言われました。販売することにしたんです」
3Dプリンター「Qholia」
他社製品の改造を売るわけにもいかないし、性能にも限界がある。「だったら自分でつくればええやん」と市販の3Dプリンターの問題を一つずつ潰し、1カ月かけて試作機をつくった。しかし、むしろ大変だったのはその後。個人や組織のプレゼン用、研究の試作用、少量生産など様々な用途を見越して微調整を繰り返した。半年近い期間を費やして、ようやく製品版を完成させたという。
3Dプリンターはソフトクリームのように、上部のノズルから出てくる素材を積層させることで造形物をつくる。日本ではノズルから出た樹脂を紫外線で固めるSTL(光造形)方式の3Dプリンターが多いが、これは本体と素材が高価なのが欠点。一方、熱に溶ける樹脂を積み上げるFDM(溶融樹脂積層型)方式は比較的安価だが、造形に粗が出てしまう。作業時の振動やゆっくり固まることでダマができてしまうのだ。
「Qholia」は本体が頑強な構造で作業時のブレに強く、FDMの中でもかなり正確な出来を誇る。また、購入者が自分にあったカスタマイズが可能。そのため一時期は半年待ちになるほど注文が殺到した。自分と同じ製品開発者の需要を捉えたことを古川は確信。彼が予想できなかったのは、同業者以外からも多数の注文が舞い込んだことだ。
「一番熱意ある注文が多かったのは、アニメキャラクターなどのフィギュアの造形師さん。版権ものを扱うのでデータを外部に造形依頼するのが難しく、自前の3Dプリンターが重宝するそうです」