そして今、IT業界からビジネス界全体のリーダーになろうとしている。新時代のカリスマ経営者が語るリーダーシップ論とは。
答えは「京都」だった。
マーク・ベニオフがいつ来日するか、わからない。およその期間は把握しているものの、プライベートで早めに来ることもあり、ごく一部しか知らない。取材の前、本誌はそう聞いていた。
クラウド型顧客関係管理(CRM)大手「セールスフォース・ドットコム」共同創業者兼CEO、マーク・ベニオフ(53)。世界を代表する経営者は、プライベートで日本のどこへ行っているのか──。
ところが、答えはあっけなく本人の口から明かされたのだ。サンフランシスコから関西国際空港に飛び、その足で京都へ向かったという。来日の際は、最初にそうするらしい。しかも、多くの友人を伴って来日する。その中には、映画『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督や芸術家のJR、ロックバンドU2やマドンナのマネジャーを務めるガイ・オセアリーの名も。ベニオフは「未来を担う世代にインスピレーションを与えられれば」と考え、なるべく若手起業家も連れてくるようにしている。「日本という国にはイノベーションのヒントと機会が詰まっていて、条件として理想的です」
ベニオフ一行はまず全員で龍安寺へ向かう。そして石庭で瞑想をする。七五三の庭の白砂には大小15の石が並ぶが、どの角度から眺めても1個は隠れて見えない。だがベニオフには、代わりに見つかるものがある。それは「初心」だ。「初心に戻るには最適の場所です。実際には14個しか見えませんが、『自分の心』を見つめられますからね」
「本当に京都に毎回行っていますよ」と笑うのは、セールスフォース・ジャパンの小出伸一会長兼社長である。現職に就く前からベニオフとシリコンバレーや日本について情報交換をする仲だった小出は、あるとき車中で交わした会話について明かす。
「どうすればイノベーションは起きるのか、をマークと話していましたね。それには『ビギナーズ・マインド』が必要だと。それで日本語で何と言うんだ、と聞かれたんです」
かつて、一緒に連れていった友人で歌手のニール・ヤングに至っては深い瞑想に入ってしまい、その経験をもとに音楽アルバムまで作ったそうだ。故スティーブ・ジョブズも来日時、龍安寺の石庭で瞑想していたのはよく知られた話だ。ベニオフ自身、足しげく通うようになったのは、オラクル勤務時代に同社の共同創業者ラリー・エリソンに連れてきてもらったときに感銘を受けたからである。