ベニオフは、より高いレベルの信頼関係を築くには突き抜ける必要があると感じていたからだとも語る。透明性が低ければ、顧客に信じてもらうのは難しいからだ。前出の小出も「なにごともオープンにしていくべき」というベニオフの考えに同意する。
「システムにしても、ビジネスにしても可視化することで『トラスト(信頼性)』が生まれると思うので、そういったところには積極的に投資しています」
セールスフォース・ジャパン会長兼社長、小出伸一
実際、セールスフォースの透明化はプロダクトに留まらない。企業文化にも浸透しており、四半期ごとに行われる経営会議も公開してすべての社員にライブ配信している。
「自分と会社をもっとオープンにしていく必要があります。例えば、フェイスブックが犯した大きなミスの一つは、問題を認めるのに時間をかけ過ぎたことです。以前から問題があることがわかっていたのなら、なぜそれに向き合おうとしないのでしょうか? これは企業文化の問題でもあるので、克服しなければ繰り返されるでしょう」
とはいえ、これはすべての会社にとっての課題であり、同時に克服できるものだろう。セールスフォースとて同じだった、とベニオフ自身も認める。「人は成長するので、いつまでも同じであり続けるのは無理があります。だからこそ、『初心』です。毎日が自分にとって新しい1日であると自覚しなくてはならないわけです。目の前にある現実を生きているか。この瞬間、地に足をつけて生きているか。きちんと相手の言葉に耳を傾けているか?」
少なくとも、ベニオフが迷うことはないだろう。答えはいつだって「京都」にあるのだ。
金持ちは自分に縁遠い。そう考える人は少なくないだろう。しかしデータから見えてくる現実の富豪像は少々異なるのだ。努力、賢さ、経験、そして何よりも忍耐──。彼らの歩んだ道を辿れば、これから彼らが向かう先も見えてくる。長者番付に名を連ねる「富を生み出す人」の秘密は、5月25日発売の『Forbes JAPAN』7月号で。目次・詳細はこちら>>
マーク・ベニオフ◎顧客関係管理(CRM)大手「セールスフォース・ドットコム」の共同創業者兼CEO。南カリフォルニア大学卒業後、ソフトウェア開発会社オラクルに入社。共同創業者のラリー・エリソンCEOに認められて頭角を現す。1999年にセールスフォースを創業、同社を業界リーダーに育て上げた。妻のリンと共に、慈善活動にも積極的なことで有名。
小出伸一◎セールスフォース・ジャパン会長兼社長。世界でマーク・ベニオフ以外では唯一「CEO」の英語タイトルをもつ。日本IBMやソフトバンクテレコム、ヒューレット・パッカードなど国内外の一流IT企業で役員を務めた経験をもつ。ベニオフの積極的な声がけもあって2014年に現職に就き、現在は約1300人を率いている。