キャリア・教育

2018.05.24 19:00

【独占】マーク・ベニオフが語った「京都、透明、有言実行、そして初心」

セールスフォース・ドットコムCEO、マーク・ベニオフ


リーダーシップは、「優先順位」で決まる
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近年、シリコンバレーを中心に、デジタル化の力で起業家が既存産業を「ディスラプト(破壊)」する流れが続いてきた。それは消費者により安価でより良いサービスをもたらす面がある一方で、顧客の信頼そのものを置いてきぼりにする面もあった。

例えばフェイスブックは、今年3月、内部告発で発覚したケンブリッジ・アナリティカ社による個人情報の不正利用問題では、多くの人に衝撃を与え、マーク・ザッカーバーグは米連邦議会上院司法委員会の公聴会で証言と謝罪を余儀なくされた。

配車アプリの「ウーバー」にしても、革命的なサービスとして瞬く間に人気を集めたが、ドライバーへの対応や割高な手数料、経営陣の喧嘩腰の事業拡大戦略、社内での女性差別により共同創業者兼CEOのトラビス・カラニックが追い出されている。
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「ディスラプト」という概念が免罪符のように使われ、営利と成長率を追求するだけの企業に対し、消費者や従業員、関係企業といったステークホルダー(利害関係者)は厳しい目を向けるようになっているのだ。

ベニオフは今年1月に行われた世界経済フォーラム(WEF)のパネルディスカッションでも、シリコンバレーに蔓延する「プロダクト>顧客」の風潮と、それを許す経営者を糾弾している。

そして、「優先順位の危機」だと指摘する。自社にとって最も重要なことは何か。それに優先順位をつけることができるか。彼は若手起業家をメンタリングする際も、しつこく優先順位について聞くという。「君にとって最も大事なことは何? その次は? 3番目は? という具合に順に尋ねていきます。それは成長率か、品質か、イノベーションか、それとも顧客への敬意か」

日本の場合は欧米とは価値観の機微が異なるので、「あなたにとって大事なのは顧客の信頼か、それとも顧客への敬意か」と聞き方を変えるという。「多くの人が『その二つからは選べません!』と答えます。でもすべてが等しく大切というのなら、どれも大切にしていないのと同じですよ。自分にとって最も大事なものを選ばなくてはいけません」
 
初めてビジネスレビューをする相手にも、ベニオフは必ず事細かに優先順位について尋ねると、小出も話す。

「1番目と2番目の項目はどちらのプライオリティが上か。3番目と4番目なら? こう何度も繰り返し聞きながら、入れ替えていきますね。人ができる範囲は決まっているわけです。だからこそ、優先順位が重要になってくるのです」

ベニオフは「優先順位を決めること、すなわちリーダーシップ」とさえ言う。価値観に明確な優先順位を設けると、取るべき道も決まってくるからだ。「価値観の優先順位がわかれば、行動に移れます。判断がもっと簡単になりますよ。多くのリーダーがしがちな誤りは、価値観を決めずに拙速な判断を下している点です」

インタビューのとき、奇しくも太平洋の向こう側では、ザッカーバーグが証言をしていた。「ひょっとすると、マークにとっては顧客の信頼よりもプロダクトの方が大事だったから、証言する羽目に陥ったのかもしれません。何が大事か、再考し、優先順位を改める必要がありますね」

ベニオフはそう話すが、これは彼自身がセールスフォースを育てる過程で得た苦い教訓にもとづく老婆心から出た言葉だろう。事実、同社は05年にサイトがダウンする事態に陥ったことがある。顧客は不満を露わにし、競合は機を逃すまいと無料トライアルを始めた。怒りと焦燥が渦巻くなか、部下がベニオフに進言したのだ。「すべての状況を顧客に公開すべき」と。ベニオフは「葛藤があった」と振り返る。沈黙を保てば、余計な大ごとになる前に収束させられるのではないか──。

しかし、それは「戦略的な誤り」で、しかも「すぐに公表すべきだった」と振り返る。だが、貴重な教訓を得たのも確かだ。

「プロダクトだけではない。顧客やパートナー企業、従業員、すべてのステークホルダーとの信頼関係ほど重要なものはない、と気づいた瞬間でした」

そして、それは「透明性」という新たな価値観がセールスフォースに生まれた瞬間でもあった。いまでは全世界のユーザーが同社のシステムの状況をリアルタイムで確認できる。
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文=井関庸介 写真=ピーター・ステンバー

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