キャリア・教育

2018.05.24 19:00

【独占】マーク・ベニオフが語った「京都、透明、有言実行、そして初心」


ベニオフは、「リーダーシップは初心から始まる」と考えている。

「自分の心と向き合い、過去の雑念を振り払うことで初めて未来を描くことができます。初心と意志、ビジョンが合わさることで行き先がわかるからです。リーダーシップはそこから始まります」

ベニオフが3人の技術者と共に1999年に創業したセールスフォース・ドットコムは米カリフォルニア州サンフランシスコを拠点に、20年足らずで世界屈指のIT企業に成長した。「ノー・ソフトウェア(NoSoftware)」を謳い、ソフトウェアベースだったCRMサービスのクラウドへの移行を加速させた“SaaS(サービスとしてのソフトウェア)の旗手”である。2018年度通期の売上高は104億8000万ドル。16年にはフォーブスU.S.が「世界で最もイノベーティブな企業」と評価。ベニオフ自身も同誌に「過去10年で最高のイノベーター」に選ばれている。今や、IT業界を代表するリーダーである。

ベニオフ流リーダーシップには、(1)「夢」、(2)「バリュー(価値観)」、(3)「プラン(計画)」、(4)「障害」、(5)「計測」という5つの要素がある。

まず、リーダーは「夢」を語ることで、周囲に進むべき道を示すことから始める。それこそ、アフリカ系アメリカ人の公民権運動で先頭に立ったマーチン・ルーサー・キング牧師や、人類の月面着陸をぶち上げたジョン・F・ケネディのように。途方もない絵空事のように思えても、呼応する人々がそれを一緒になって実現していくのである。

次に、「価値観」を決める。これはコミュニティに所属する人たちを根底でつなぐものであり、全員が目指すべき方向性の指針となる。

持っている夢や価値観により、自ずとすべきことが決まってくる。それを実現するには「計画」が不可欠である。だが、計画を実行する上で「障害」はつきものだ。その障害を克服し、成功したかどうかを知るには、「計測」しなくてはならない。

そして、ベニオフは「初心」に立ち返ることでこの一連のサイクルは再び始まる、と考えている。「(ジョブズやエリソンといった)シリコンバレーの経営者たちがたびたび龍安寺を訪れて雑念を払い、心を安らかにしていたのは、今日のリーダーにとって重要な学びだと思いますね」

「CEOアクティビスト」の時代
 
今、ビジネスにおけるリーダーシップは変化の時を迎えている。インターネットで情報が瞬時に拡散するようになった結果、国家と国境で構築された従来の体制に歪みが生じ始めている。国家予算並みの資本を持つ企業のパワーが相対的に大きくなった結果、経営者の果たすべき責任も多岐に渡り、いっそう重くなっているのだ。

その中にあってひときわ存在感を高めているのが、ベニオフである。さまざまな慈善事業に取り組んできた彼は「CEOアクティビズム(社会向上のための積極行動主義)」の代表格とされている。

「今日のCEOは単にプロダクトを開発するのではなく、それが環境であれ、人権保護であれ、あるいは社会的責任(CSR)で貢献できる範疇であれ、世界により良いインパクトを与えることが求められているのです」と、ベニオフは説く。
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文=井関庸介 写真=ピーター・ステンバー

この記事は 「Forbes JAPAN 「富を生み出す人」の秘密」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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