しかし、現在、全国的に自治会への加入者は減少し、一方では地域の高齢化や過疎化も進み、住民同士の支え合いが不可欠とされるなかで、自治会運営への懸念は日増しに強まっている。
佐々木が在籍した市民協働政策課にも、「地域コミュニティの強化」というミッションが与えられていた。目的は自治会を支援することによって、地域の住環境を守ること。連携強化のため、佐々木は町会連合会を訪問したが、「どうせ役所の業務として、来ただけなんだろ?」と言われるほど、信頼を得ないなかでのスタートだった。
視察をともにして町内会長の真意を知る
佐々木は町会連合会が月1回開催する定例理事会に足繁く参加し、他地域にある先進的な自治会の視察を提案した。しかし、相手は60代から70代の人生の大先輩である。入庁2年目の若手職員が視察を提案したところで、たやすくは進まない。「そんなことをやる時間があったら、他のことをやれ」と、冷ややかな反応さえあった。
しかし、佐々木は自治会の課題や事例を徹底的に調査し、諦めずに食い下がる。その粘りが功を奏し、後日、町内会長とともにいくつかの先進事例の自治会への視察が決まった。
視察には佐々木も参加し、町内会長と長く時間をともにした。そのとき、町内会長が地域住民のクレームの矢面に立ち、日々、心をすり減らしながらも努力を続けていることを、初めて聞くこととなる。
佐々木は役所から給料を食みながら自治会と関わる、自らの甘い気持ちを恥じた。そして、それと同時に、懸命な努力を続ける町内会長が報われるよう、そして、誇りが持てるように、行政としてサポートしていきたいとの思いをなおも強くする。
「熱意に負けたよ」と言われた
他地域にある先進的な自治会の視察後に、佐々木はいくつかの具体的提案を行ったが、あいかわらず自治会関係者からの否定的な意見は絶えなかった。それでも、反対意見に耳を傾けながら、建設的な提案を続けると、少しずつ理解者も増えていった。
次年度の取り組みを議論する町会連合会で、佐々木は再度提案をする機会を得た。当日は、「また批判されるのではないか」と内心ビクビクしていたが、腹を括って思いのたけを切々と伝えた。