大統領のほうは、さっそくお得意のツイッターでコミー氏のことを「嘘つきのスライムボール」とか「お墨付きの暴露屋&ほら吹き」と反撃し、「彼をクビにしたのは小生の名誉とするところだ」といつものように胸を張っている。
とはいえ、共和党のトランプ大統領を攻撃しているからといって、コミー氏は民主党から愛されているわけではない。大統領選の直前に、コミー氏がヒラリー・クリントン候補のメール流出問題の捜査再開を発表して、当選確実と言われたヒラリーを落選させた張本人であるという見方は党派に関係なく根強く、ヒラリー自身も、「あのせいで落選した」と語っている。
現在、コミー氏を支援する層はなく、本人は人生で一貫して共和党を信奉していたのだが、いまでは無党派になっている。
前述のように、部数は初版85万部で、推定印税は1億5000万円から3億円になるとみられる。トランプ大統領がツイッターで攻撃したことにより、このベストセラーはますます売れ、印税もさらに多くの額が見込まれるだろう。刊行する出版大手のマクミラン社側も、売るために、(ロシア疑惑に対する独立検査官による調査が進んでいるので)ネタが古くならないよう発売を2週間も早めている。
筆者の小説の編集を担当してくれた編集者は、「批評は、絶賛か酷評のどちらかが並ぶのがいちばん本は売れます。中間はダメです」と語っていた。「絶賛と酷評で、あいだがない」というのは、まさにトランプ政権に対する国民感情そのものを指していて、すべてはトランプの演出であり、コミー氏もそこに乗っかることで億単位の宝の山を見つけたのでは、そう思ってしまうのはコミー氏に対して酷だろうか。
その業界でまだこれから活躍しようと思う人は、古今東西、暴露本など出さない。絶対の守秘を旨とするからこそ、あらゆる情報収集の権限が法によって与えられるFBIの前長官が、このような暴露本を出してしまう事象に、全米3万5000人のFBI職員は何を思うだろうか?
連載 : ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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