一度採寸してしまえば、2着目以降はネットで簡単にオーダースーツを注文できるサービスが人気沸騰中だ。なかでも、高品質ながら低価格で、納期が約「1週間」という早さの『カシヤマ ザ・スマートテーラー』に注目が集まっている。その躍進の理由を、株式会社オンワードパーソナルスタイル代表取締役社長 関口 猛に聞いた。
eコマースの普及や製造業のIT化が進むなか、紳士服業界ではオーダースーツをネットで注文できるサービスが群雄割拠の様相を呈している。プレイヤーも、既存の大手メーカーや大型販売店のみならず、スタートアップ企業や縫製工場など多岐に渡る。
そんななか、2017年10月のローンチと後発だったものの、着実に評判をあげているのが、オンワードパーソナルスタイルによる『カシヤマ ザ・スマートテーラー』だ。
「採寸はネットで予約し店舗で行ないますが、現在、全国13か所ある既存店は土日がほぼ埋まっている状況が続いています」と、関口社長。今後は立地のいいビルの一室を借り、予約したお客さまだけを案内する『ガイドショップ』と呼ばれるスペースも順次確保していくという。採寸を行いたい消費者の要望に応えるものだ。
アパレル界の主役が参入したこの市場。「カシヤマ ザ・スマートテーラー」はなぜ支持を集められているのか。
フルオーダー並の体感に胸が高鳴る初めての人はネットから店舗に予約を入れて採寸をおこなう。個人のデータは厳重に管理され、以降、店舗でもネットでもそのデータをもとに注文できる仕組みとなっている。
最初におこなうのは、生地選びだ。税抜きで3万円(ポリエステル混紡ウール)、4万円(ウール100%)、5万円(インポート)と3タイプから選択。色はダークネイビー、ブラック、チャコールグレーが中心で、計94種類もの選択肢がある。
その後、2つボタン、3つボタンといった基本デザインや、ラペルの種類、ベントの有無、裏地の形状(総裏または背抜き)、ボタンなどを細かく選んでいく。パーツによってはオプション料金がかかるが、スペアパンツ(シングルスーツ代金の30%)やベスト(シングルスーツ代金の30%)などを追加することも可能。すべての注文が終われば、「約1週間」で指定の場所に宅配便で届く。
ここで注目したいのは、注文から約1週間という短期間で届く驚きの早さだ。他社では通常約1か月、繁忙期であれば2か月近く待たされることもある。
1週間納品の革命、そして体験価値縫製だけでも300以上の工程を4日で仕上げる。工場内のラインを組み換え、既製品製造で学んだ知見で効率化を図り、出荷検品過程も大幅に短縮することで1週間の納品を実現した。
「オーダースーツは、実はアナログな世界。サイズを用紙に記入し工場にFAXするのが一般的で、月曜の朝にはFAXが山積みになっている。それを手動で入力しミスを防ぐためにもうひとりが確認作業をする。さらに設計図を作りと、準備だけで数日を費やしているわけです。弊社では寸法データをオンラインで送信、自動でCAD設計図を作るシステムに新しく投資しました。商品完成後は、圧縮パックしたものを自社工場から直接お客さまにお届けしています」
スーツが圧縮された状態で届くのは『カシヤマ ザ・スマートテーラー』ならではだ。〈パックランナー〉と呼ばれる。原理としては、完成したスーツを乾燥機へかけ、型崩れなく水分だけを抜き、最後にパックをして圧縮。輸送時の傷やシワの心配がないし、ハンガーを使わず省スペースなのでコストも抑えられる。購入者は手元に届いたら封を開け、約1時間ハンガーに吊るしておくだけ。空気中の水分をゆっくりと含んで、ふわっとした生地に戻るのだ。
「物流の手法としては以前からありましたが、これを直接お客さまに届けたり、袋にロゴを入れたのは業界初です」
このパックランナーという「届く体験」も消費者の心をつかんだ。およそスーツが入っているとは思えないコンパクトなBOX。自分への贈り物の感覚すらある。ビジネス的な視点で言えば、出張先のホテルに届く手配をすれば、「身体に合った新品のスーツ」が現地で手に入る。これは秀逸な仕組みだ。
人材というオンワードだけの強みオンワード樫山は、その長い歴史を百貨店とともに歩んできた。良いサービスを知る消費者と真摯に向き合い商品を提供してきた。いいものをつくるマインドは、安いスーツ全盛の時代になっても、価格をそれに合わせるよりほかにできることはないかを考えることだ。
「昔から、とにかく〈現地〉へ行きなさいと言われますね。商社さんなどへ完全に任せるのではなく、海外で糸をつくっているなら実際に見に行く。うまいお寿司屋さんが築地に行くのと同じです」
社員の志は大きな財産を生むことにもなっている。中国にある自社工場は、同社と数十年に渡る取り組みがなされてきた関係を持つ。工員の定着率も高いため、技術の高いベテランが多数在籍している。
「着心地の良さを左右する、肩や襟の“いせ込み”技術(平面である布地に立体的な丸みをつける技法)には特に自信があります。また、スマートテーラー向けに製法を変えることなく、従来通り仕立てをたくさん打つ丁寧なものづくりをしています。自画自賛になりますが、いい工場だと思いますよ」
ベテランが多いという点は、オーダースーツの根幹ともいえる採寸現場に当てはまる。同社のフィッターは、20年以上のキャリアを持つ者が約8割。10年以上のキャリアであれば約9.5割と人材が豊富なのだ。生地においても、年間何十万着というスーツを製造しているオンワードグループのスケールメリットを享受できる。ゆえに、高品質で価格を抑えることが可能になる。
新しいサービスにおいても、縫製にいたる質は何ら今までと変わらない。このものづくりマインドが今回の仕組みを支えているとも言えるだろう。
このオーダースーツは消費者の本命となる『カシヤマ ザ・スマートテーラー』では、オーダーする体験、届く体験、着心地の体験に心地よい満足感を与えてくれる。最後に、スーツをオーダーすることの魅力を聞いてみた。
「私は海外出張が多いのですが、行く先々でスーツを褒められるんです。なぜか。それは生地の良さではなく体に合ったスーツを着ていることなんです。欧米諸国では体に合ったスーツこそがGOOD LOOKING。私たちも、体型に合った着物を着こなしている外国人がいたら”素敵だな”となるじゃないですか。でも、それを実現するには既製服では無理なんです。『カシヤマ ザ・スマートテーラー』の生地は低価格で高品質、そして何より体に合ったものが作れます。それこそがオーダースーツの魅力だと思います」
同社は、誕生の地である大阪で、50坪もの広さの新店舗を予定している。スーツをはじめとしたひとつ上のオーダーメイドを体験できるものだという。一度でも同社の体験価値を味わったユーザーなら何かを期待せずにはいられない。