有名無名を問わず脚本家は、月額利用料を払ってユーザー登録する。そして、自らが執筆した脚本を、さらにオプション料金を払ってウェブサイトに公開する。サイトは限られた映画関係者だけが見られるようになっており、そのなかで興味がある作品があれば、直接、脚本家と交渉にあたる。
1992年公開の映画に、ハリウッドのプロデューサーを主人公にした「ザ・プレイヤー」という作品がある。そのなかでデスクに堆く積まれた脚本のシーンが登場するが、まさにそれをウェブサイトに置き換えたのが、この2005年に設立された「ブラックリスト」だ。
「ブラックリスト」では、閲覧した人たちによって評価も付けられるので、優れた脚本はここで注目され、映画化へと結びついていく。まだ無名の脚本家にとっては映画業界への登竜門ともなるし、映画製作者にとっては未来のアカデミー賞作品を見出す格好の場ともなっている。
事実、過去10年にアカデミー賞の脚本賞と脚色賞を受賞した20作品のうち、10作品がこの「ブラックリスト」に登録された作品。最近では、「スポットライト 世紀のスクープ」(ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー脚本)、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(ケネス・ロナーガン脚本)が脚本賞に、「ソーシャル・ネットワーク」(アーロン・ソーキン脚本)、「アルゴ」(クリス・テリオ脚本)などが、脚色賞に輝いている。
前置きが長くなったが、映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(3月30日公開)の脚本もこの「ブラックリスト」に登録されていたもので、2016年の「最も気に入った脚本」ランキングで第2位に輝いている。脚本はリズ・ハンナという女性が執筆したものだが、彼女にとっては初めての映画化作品だった。
同作は、1971年、ベトナム戦争における不都合な真実が書かれたアメリカ国防総省の最高機密文書(ペンタゴン・ペーパーズ)が、メディアの報道によって明らかにされた事件を描いたものだが、脚本では、「ニューヨーク・タイムズ」に次いでこの文書を報じた「ワシントン・ポスト」の女性社主、キャサリン・グラハムにスポットが当てられていた。
脚本家のハンナは元々、夫の自殺で主婦から一躍新聞社の社主となったグラハムに興味を抱き、彼女を主人公にした物語を考えていたという。そして、彼女の伝記や関係書籍を読むうちに、「ワシントン・ポスト」の社主としてペンタゴン・ペーパズの公表を決断した、その時期にフォーカスを絞って脚本として執筆した。
この脚本を「ブラックリスト」から見い出し、映画化に動いたのは、女性プロデューサーのエイミー・パスカルだ。
「世間に伝えるべき物語だと思った。まったく働いたことがなかった主婦が、新聞社の社主となって歴史に残る決断を迫られた。そして、決断は彼女の人生を変え、新聞業界にも影響を及ぼした。そこがとても興味深かった」
パスカルは、ハンナの脚本に注目した点をこのように語るが、映画でグラハムを演じたメリル・ストリープも、同じくこの脚本に目を留めていた。もちろん、監督することになるスティーヴン・スピルバーグもこの脚本に惚れ込んでおり、彼と20年以上タッグを組んでいる女性プロデューサーのクリスティ・マコスコ・クリーガーも製作陣に加わった。