邦題では「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」というタフなタイトルが付けられているが、原題は「The Post」。政治とメディアの内幕ドラマのように捉えられがちだが(もちろんそういう要素もあるのだが)、実は「ワシントン・ポスト」の社主、キャサリン・グラハムのライフ・ストーリーでもあるのだ。
そして、その映画化を実現したのが、監督のスティーヴン・スピルバーグを除き、脚本家、プロデューサー、主演がみな女性であり、ハリウッドにも確実に新しい風が吹いてきているようにも思える。
(左から)プロデューサーのエイミー・パスカル、クリスティ・マコスコ・クリーガー、主演女優のメリル・ストリープ、脚本家のリズ・ハンナ
ところで、この「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は、ハリウッドの大作には珍しく驚くべきスピードで製作された。2016年の「ブラックリスト」に登録されたこの脚本を読み、プロデューサーのパスカルが映画化権を獲得したのがその年の10月。すぐに映画化へと動いたわけだが、スピルバーグの動きも迅速だった。
「いますぐこの映画をつくらなければいけないと思った」というスピルバーグは、手がけていた新作のSF映画「レディ・プレイヤー1」(4月18日日本公開)の撮影をイタリアで終了させ、スタッフを率いてアメリカに戻り、短期間で新しい作品を撮ることを決めたのだ。
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」の撮影は2017年5月30日にニューヨークで始まり、すべてが終了したのが11月6日。実質5か月間、早撮りで有名なスピルバーグの作品の中でも、最も短期間で完成した作品となった。アメリカでの公開は、早くもその年の12月22日。結局、2016年7月から撮影に入っていた「レディ・プレイヤー1」より3か月も早い公開となった。
巨匠監督であるスピルバーグが、なぜ新作の進行を中断してまで今作の映画製作にシフトしたのか。どうして「いまこの映画をつくらなければいけない」と彼は考えたのか。
トランプ大統領の誕生以来、アメリカでの政府とメディアの関係は極めて悪化している。「ワシントン・ポスト」や「ニューヨーク・タイムズ」の報道は名指しで政権側から非難され、都合の悪い報道は「フェイクニュースだ」とまで大統領本人からツイートされる。こういった状況に、おそらくスピルバーグも製作者側も素早く反応したのだと思われる。
つい先日(2月24日)日本でも公開された映画「ザ・シークレットマン」(ピーター・ランデスマン監督、米国公開は2017年9月29日)も、1972年に始まるウォーターゲート事件で、メディアへの情報提供者であった「ディープスロート」ことマーク・フェルトFBI副長官を主人公にして描いた作品だった。社会の動きを敏感に察知した映画がタイミングよく公開されるのは、さすがアメリカと言わざるを得ない。
ちなみに、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は、これに続く、時の政権とメディアの攻防となるウォーターゲート事件を匂わせるシーンで終わる。あるべき報道とは何かを考える意味で、いまの日本でもたいへん時宜に適った作品ともなっている。
映画と小説の間を往還する編集者による「シネマ未来鏡」
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