アルゼンチンのロサリオに住むVictor Busoは、自宅の観測施設で新しいCCDカメラの試し撮りを行っていた。その時、渦巻銀河「NGC613」で何かが起きていることに気付いた。
撮影した画像に写っていたのは恒星が爆発する直前と直後の瞬間で、これまで観測できた例はない。この瞬間に遭遇する確率は1億分の1ともいわれる。
「これは天文学者たちが長年、夢見てきた瞬間だ」と語るのは、超新星「SN2016gkg」と名づけられた今回の爆発を調査したカリフォルニア大学バークレー校の天文学者Alex Filippenkoだ。
「爆発直後の星を観測することによって得られるデータは、非常に貴重なものだ。Busoのデータは類のないもので、(今回の爆発に関する論文は)アマチュアとプロの天文学者が協力したことによって成果を出せた良い例だ」
科学誌「ネイチャー」に掲載されたFilippenkoの論文にはBusoと、仲間のアマチュア天文学者Sebastian Oteroらの名前が記載された。
超新星誕生の報告を受けたFilippenkoは、カリフォルニア大学のリック天文台にある口径305センチメートルの反射望遠鏡と、ハワイのマウナケア山にある口径10メートルのケック望遠鏡を使ってさらに画像を撮影した。
その結果、水素外層のほとんどを失った大質量の天体の爆発である「IIb型超新星」であることが判明した。この天体はかつて太陽の20倍もの質量があったとされるが、爆発後には太陽の5倍ほどにまで小さくなっていた。
Busoが撮った画像にはショックブレイクアウトの衝撃で温度が上昇し、光度が増大した瞬間が写っていた。この現象はこれまで観測されたことがなく、理論上起こっていると考えられていた。
Busoは昼間、ロックスミス(鍵屋)として働き、夜になると天体観測を行っている。
「自分はなぜ天体観測をしているのだろうと考えていたが、ようやくその答が見つかった」と彼は現在の心境をネイチャーに語った。