イエール大関係者が子女を託す「好奇心を伸ばす」小学校

米コネチカット州、イエール大学の近くにある小学校「Cold Spring School」、1982年創設。(c)Cold Spring School


教員に求める「意外な資質」

生徒の興味に従って有機的にカリキュラムを創り出しながら、全ての生徒が一定の知識や技能を身につけることを担保するためには、教員の非常に高い技量が問われることはいうまでもない。一体どういう基準で教員を採用しているのか。尋ねると、意外な答えが返って来た。

「よく旅をして、自らの目で世界を見て来たことがあるか」「人生を通じて芸術に親しんで来たか」。

これらは少なくとも、日本の教員採用試験において一般的に問われる質問とはかけ離れたもののように聞こえる。しかし、「学びは全て社会と繋がっているべきで、社会と結びつけて教えられなければ生徒の好奇心は繋ぎとめられない」というPandit女史の思想には深く共鳴する。実際私たちが運営するユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンでも、複数国での居住経験、教師以外の職業も経験がある人材は少なくない。

これからの子どもたちは、激動の社会の中を生きていくことになる。そんな子どもたちには、世界の躍動感を肌で感じ、変化の風に触れ、その中で自らが社会と向き合い、教科知識の意味を問い続けている教師にしか教えられないことがあるのかも知れない。

44%の生徒に奨学金を給付

さらに特筆すべきは、全校約145名という少人数学校だからこそ実現できるきめ細やかな個別対応である。特に個人差が出やすい算数においては、全学年の算数の授業を毎日11〜12時に定めることで、生徒自ら学びのペースに合わせて自由自在に学年を移動することができるというから驚きだ。

その柔軟さは、学費の面でも同様だ。前回記事でも触れたように、きめ細やかな教育には当然コストがかかる。Cold Spring Schoolも通学制で年間の学費が2万3800ドル(約270万円)だというから、決して安くはない。しかし同校では実に44%の生徒に給付型奨学金を用意することで、家庭の経済事情によって就学機会に差が出ることを極力避けるように努力しており、結果的に42%の生徒が有色人種だという。ここでもやはり、「応能負担」の原則がうまく働いているように見える。

日本で実現できないワケ

特に幼少期や小学生時代は、知識を詰め込むことよりもむしろ、感受性豊かに、好奇心旺盛に、自己肯定感を育みながら成長して欲しいと言うのが多くの親の希望ではないだろうか。ある程度の知識体系の枠組みの中で、子どもたちの興味に従ってカリキュラムを組み、教科横断的に、学年さえ超えて学ぶ。そんな学校があったら素敵だなと思うのは私だけはないと思う。

しかし、わが国では文科省の定める学習指導要領にて、教科ごとに教える内容が定められていることに加えて、学年ごとの必要単位数、そして単位ごとの授業時間数までが分単位で指定されている。

確かに、日本の小学生の算数の基礎学力が世界に誇れる水準であることは間違いない。それでも、そうした良さを活かしながら、もっと学校ごとの創意ある取り組みが容易にできるようになれば、多様化するニーズ、そして多様な生徒の個性に寄り添った教育が、よりやりやすくなるのではないだろうか。

もちろん、そうした規制緩和に先立って、教員の皆さんが教科への深い愛情と知識を以って、生徒たちのダイナミズムをみながらカリキュラムを構成してゆくことを楽しめるように、養成や研修がなされる必要があることは言うまでもない。「ゆとり教育」失敗(という声が多かった)のトラウマから解き放たれて、今一度カリキュラムに自由度を持たせる時代が来ることを祈ってやまない。

ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」
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文=小林りん 写真=Cold Spring School

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