ユニリーバの9割の社員が活用する「新しい働き方」

自宅やカフェで働く同僚との電話会議は日常の風景だ。WAA導入と同時に「残業時間は月45時間まで」という目標も掲げ、導入前に比べて10%〜15%減という結果を出している。

新しい働き方「WAA」を導入して、1年5カ月。成功の鍵は、制度導入前の「何のために働き方を変えるのか?」という徹底的な議論だった。


「ユニリーバ・ジャパンから世界を変える」という高い展望を掲げ、同社は2016年7月から新しい働き方をスタートさせた。それが、働く場所と時間を自由に選択できる制度「WAA(Work from Anywhere & Anytime)」だ。

Anywhereは、自宅やカフェ、図書館など自分の好きな場所で働くことができるというもの(当然、従来どおりオフィスで仕事をしてもよい)。Anytimeは、1カ月単位での所定労働時間が守られていれば、平日6〜21時の間でいつ働いてもよいというものだ。制度導入後、男女を問わず9割の社員が活用し、残業時間が減り、かつ売り上げでも成長が続いている。

だが、特筆すべきは、社員の生産性・幸福度が上がっている点だ。制度を実施した社員からは「成果が上がるための働き方をより自分で選択できるようになった」「日々この場所で働くということを選択している自覚が芽生え、仕事の生産性が高まっている」「仕事に追われることなく、楽しく充実した日々を送れるようになった」という声が多数挙がっている。


本社の壁面には「環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させる」など、企業としてのビジョンや価値観を示すフレーズが書かれ、社員が常に意識できるように工夫されている。

場所と時間の選択肢を広げただけで、なぜ生産性や幸福度が上がったのか。取締役人事総務本部長の島田由香は「何のために働き方を変えるのか?という議論を14年から徹底的に行い、『すべての社員がよりいきいきと働き、健康で、それぞれのライフスタイルを楽しみながら豊かな人生を送る』というビジョンを明確に掲げたから」と断言する。

会社のために身を粉にして働くという高度経済成長期から、はや45年。企業の闘い方は変わり、変化のスピードが速くなり、量より質が求められる時代になった。現代は社員の幸福度が生産性へとつながり、会社への貢献度に大きく影響するということなのだろう。

「もはやワーク・ライフ・バランスではなく、ワーク・イン・ライフ。つまり人生という土台があり、仕事は人生のなかの大切な自己表現の場であるという考え方が、会社を成長させる鍵です」

ちなみに「WAA」は「ワー」と読み、この制度がワーッと広まってほしいという意味合いも込められている。そのため社外向け説明会を10回開催、これまでに約400社・700名が参加した。またWAAのビジョンに共感・実現する企業・団体・個人のコミュニティ「Team WAA!」も結成。島田のいうところの「タンポポ作戦」だ。

「私たちの吹いた綿毛が四方八方に飛んでいき、それぞれの場所で新たな花を咲かせ、その場所から次の綿毛が飛んでいったら嬉しいなと。一人ひとりの1ミリの変化が世界に広がれば大きな働き方改革につながると私たちは信じています」

新しい働き方「WAA」を視覚化

WAAには自転車をモチーフにしたロゴがある。車輪のひとつはワークスタイル(制度など)の輪、もうひとつはワークマインドセット(働く人の考え方)の輪だ。制度があっても活用されなければ無意味だ。「どう制度を活用するのか」、ひいては「どう働き、どう生きたいのか」を社員自ら考え、進んでほしいという意味を込めた。バイクではなく自転車なのは、自分で漕ぐから。「進むルートやペースを自分で選ぶことで、自分らしく働き、豊かに生きてほしい」と島田は語る。


ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス◎英国・オランダに本社を持つ世界最大級の消費財メーカー「ユニリーバ」の日本法人として1964年に設立。社員数は約500人と少数精鋭。「ビジネスを通じて暮らしを変え、未来をよりよくしたい 」という創始者の想いを脈々と受け継ぎ、ラックス、ダヴ、クリア、リプトンなど13のブランドを展開している。

文=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

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