同国の行政サービスでは「結婚と離婚、不動産売却の手続以外では役所に行かなくてもよい」のである。それ以外の手続きは全てオンラインで完結するからだ。もちろん技術的には結婚と離婚の手続きも電子化することは可能であるが、この手続は双方の意思確認が必要だから、あえて、できないようにしているという。
同国の電子政府の特徴は「国民ID制度」とそれを支える「X-ROAD」と呼ばれる情報連携基盤である。1991年の独立から現在に至るまで、この2つの特徴を軸にして様々な行政サービスが電子化されている。同国の電子政府化のプロセスは大きく3つのフェーズに分けられる。
主要な電子サービスの開始年表 “e-Estonia. E-Governance in Practice” published by e-Governance Academy
フェーズ1. 政府内での電子化推進
2001年、電子政府の中核をなす「X-ROAD」と呼ばれる情報連携基盤の運用が開始された。分散処理型のアーキテクチャが採用されており、行政サービスに関連する各種データベースが非集中化されている。つまり、X-ROADは政府・官庁・病院・学校・警察などの各機関が以前から保有している各々のデータベースを横断的に相互接続するネットワークシステム。中央集中管理ではないので、情報が必要な時に、必要な場所に対して参照をするだけだ。
データのフォーマットには、現在では標準的となっているXMLが採用されているが、2001年時点では新技術として注目されていたことを考えると、この採用はリスクをとった英断だったと言えるのではないだろうか。
2017年には、国内900以上の機関が、1500種類にもおよぶ電子公共サービスを提供し、2016年の1年間には5億7000万件以上の照会が処理されており、1年間で「820年分」の労働時間削減効果があったと同国は報告している。
X-ROADの導入と並行して、銀行・税金申告システムと閣僚・公務員向けのサービスも電子化された。
「e-Tax」と呼ばれる税金申告システムでは、国税当局がX-ROADで連携されている国民一人一人の銀行口座から、給与や社会保険料などの情報を取得して自動的に申告書を作成するため、国民はあらかじめ用意された内容をチェックするのみで申請が可能になっている。確定申告の還付金振込に3か月以上も要していたが、今では数日で完了する。
また、国民に電子システムを利用してもらうためには、まず自分達から、ということで、2000年には閣僚の会議システムが「e-Cabinet」として電子化。毎週開催される閣議前に、大臣らが事前にシステムで議題を確認することができ、半日かかっていた閣議が1時間程度で終わるようになった。さらには、毎週数千ページの資料が不要になったことで、年間約19万ユーロが削減された。
e-Cabinetを利用して閣議をしている様子。ペーパーレスである。