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2018.02.03 10:00

GDP2%分の行政コスト削減、エストニア電子政府 発展の軌跡


フェーズ2. 国民向け行政サービスの電子化

2002年には、国民IDカードが導入された。IDカード導入以前も、X-ROADを利用して各組織間で効率よく情報共有を行い、公務員の処理を効率化させていたが、その処理自体を国民が直接行えるようにしたのだ。

このIDカードには、本人氏名や顔写真のほか、11桁の国民ID番号が記載されている。日本のマイナンバーとは異なり、この番号は保護対象ではなく公知のもの。同国の15歳以上の国民に所有が義務付けられており、94%の国民が所有している。

カードは本人確認に用いられるほか、運転免許証や健康保険証、公共交通の定期券や病院の診察券代わりになる。また、電子署名や電子認証が利用できるため、会社の登記や選挙の電子投票にも利用できる。電子署名の活用による行政手続きのコスト削減効果は、GDPの2%に相当している。

国民IDカードの導入以降、教育システムや電子投票システム、会社登記システムなどの運用が続々と開始。同国では98%の企業がオンラインで登記されている。この会社登記システムについては日本のメディアでも頻繁に紹介されており、最速18分で登記が完了したことから「世界で最も早く会社登記ができる国」とも言われている。

素早く登記できる理由の一つとして、登記時に資本金を用意する必要がないことも挙げられる。ここで注意しておきたいのが、登記に必要な最低資本金は、あくまで登記時に用意する必要がないだけであり、会社を清算する時には支払う必要がある。さらに、会社の清算には半年以上かかることはあまり知られていない。

会社登記の速さが注目されがちであるが、情報ポータルとしても有用である。営利企業やNPO企業・政党などの情報が公開されているため、融資先の調査や取引対象となる会社の決算報告書、法人税の納付状況、借入金の有無など、あらゆる財務状況全般を瞬時に確認することが可能なのである。不動産登記システムとも連動しているため、企業が保有する土地やビルなどの詳細までも確認することが出来る。

フェーズ3. 国際展開

エストニアは、X-ROADの拡大展開を国家戦略に位置付け、デジタル時代の社会インフラとして国外に輸出することを推進している。隣国フィンランドとは、2013年、国を越えたデータの相互利用を目的とした「X-ROAD v6.0」を共同開発する契約を締結しており、2017年6月から自動相互接続の運用が開始された。

欧州委員会が定めるeIDAS(電子認証や電子署名に関する基準)に対応しており、国境を越えた電子契約、電子商取引などを安全かつシームレスに行うことが可能になる。エストニアで発行された薬の電子処方箋があれば、フィンランドで受け取ることも可能なのである。

同国の電子政府は、各サービスそのものだけではなく運営方針も特徴的だ。サービスの利用満足度をKPIとして設定しており、リリース後には利用者(公的機関、民間企業、一般市民)を対象にユーザーテストを行い、フィードバックを得ている。システムを作りっぱなしにせず、その結果をもとに日々アップデートしている姿勢はまさにスタートアップのようである。

電子政府を活用することで、各機関の管理コストを大幅に削減し、さらには国を越えて社会インフラの普及を推進しているエストニアは、EUのみならず、世界におけるデジタル時代のリーダーという役割を果たしていくのではないだろうか。

次回は、同国がこのような電子政府の体制を構築することが出来た要因について分析する。

文=別府多久哉

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