これまで一切取材に応じてこなかった、次のユニコーンとの呼び声高いスタートアップがある。累計調達60億円、IT化が遅れていたエネルギー業界に新風を吹かす、名越達彦率いるパネイルだ。
「未来から逆算した壮大な目標として、電力供給の完全自動運転の達成を掲げています。“エネルギー市場に最先端のテクノロジーを”と、電力とインターネットを結ぶ唯一のプラットフォームを作ることにこだわりました」
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の登場がネット業界の構造とその未来を一変させたように、彼らのクラウド型電力小売基幹システム「パネイルクラウド」は、電力業界に大きな変化をもたらそうとしている。
日本の電力小売りの生産性は、戦後60年近くにわたって欧米諸国対比で低いままだった。日本の電力業界では供給原価に基づいて料金が上下する総括原価方式が根付き、コスト抑制の力学が働かない構造が維持されてきた。2016年4月には電力小売りの全面自由化が行われたものの、新規参入者が事業を開始するためには、複雑な登録申請プロセスへの対応、数億円の大規模基幹システムの導入、24時間の運用体制構築などを必要とした。
そんな電力小売市場のIT基盤を根本から見直し、再定義するのがパネイルクラウドだ。電力業界ではこれまで、手作業でのエクセル運用が是とされ、ITシステムは数十年前の標準プログラミング言語で記述されていた。同社はそれらを近年普及している言語で一新、作業場所をローカルからクラウドへ、作業者を有人から人工知能(AI)へと置き換えた。
「まさに中国古文から現代文への翻訳作業のよう。既存サービスの膨大なコードを、地道に読み解いていきました。『事業化は無理だろう』と誰もが手をつけなかったことをやりきったことが我々の強みです」
電力小売領域の営業活動・顧客管理・需給管理・電源調達などを一気通貫で運用できるようにし、国内電力供給オペレーションの自動化を実現。販売管理費率を業界平均の3分の1程度まで下げ、圧倒的な価格優位性を獲得した。
同社は、それにとどまらず、電力小売りの自社展開で得た実証研究やビッグデータをパネイルクラウドを通して、他の電力小売事業者に提供し、いわば、電力ビジネス全体を“アップデート”していく。電気事業の新規参入者に対しては、データ連携を簡単にする技術仕様「API」をオープン化し、参入障壁を下げ、参入済みの事業者に対しては、電源調達やファイナンスの支援も実施。2017年秋には、大手IT企業と協業の基本合意。流通電力量は毎四半期200%近い右肩上がりの成長を続け、大型資金調達も計画中だ。