電通総研内のクリエイティブシンクタンクによる連載「NEW CONCEPT採集」


事例3:「ストーリー型不動産サイト」

東京をはじめ全国で展開する「東京R不動産」や湘南密着の「エンジョイワークス」など、立地や面積、築年数といった数字中心のスペックでなく、その物件の持つストーリーに着目した不動産会社が元気だ。

「古いが味がある」「超狭いが絶景」「不便だが気持ちいい空間」など、スペック的には弱い物件も、住む人の気持ちに立つと新たなストーリーと価値が見えてくる。読み物のようなwebサイトは、眺めているだけでワクワクする。


エンジョイワークスの手がける戦前の日本建築。小児科として使われていた「意外な過去」がある。

以上の事例に共通するのは、扱っているのが万人誰もが「いいね!」と思えるようなストーリーではないことだ。安定した品質、わかりやすい価値、安心感といった「正解」を求める人だったら、幻ワインも、お古のジーンズも、珍物件も魅力を感じないだろう。

デザインや機能と違い、目には見えず数値化もできないストーリーの価値は、すべての人が理解、共感できる類のものではない。だからこそ、そこに価値を見出すことができた人は、強い喜びと深いつながりを感じるのだ。

「自分は、これがわかる人間だ」。一輪の朝顔の意味を理解した秀吉も、きっとそんな気分だったにちがいない。

写真の撮影にたとえると、ストーリーとは、時代という背景の前に置かれた被写体のようなものだ。価値観、常識、風潮、センスといった時代背景の前にどんなストーリーを置いたら際立ち、魅力的に見えるのか。

白い背景の前に白い被写体を置いても目立たないように、単に時代に合わせているだけでは印象の薄いものにしかならない。異なる色を打ち出してみる。時代の逆張りをしてみる。デジタルに対するアナログ、大量生産に対する手仕事、効率に対する豊かな無駄、論理に対する直感。

そういった時代へのアンチテーゼが、触れた人に発見と驚きを与え、強いストーリージェニックの源となる。世の中にマッチしているだけでは足りない。トライする必要がある。戦国時代に現れた利休が、戦と黄金の茶室を好むような秀吉に、質素の中の美を説いたように。

いまや世の中の多くのモノが、嗜好品化してきている。価値や豊かさの再定義があちこちで行われ、人々はますますストーリーを欲している。ストーリーをつくるには、工場の新しいラインも飛び抜けた新技術も要らない。しかも、ストーリーはコピーされにくい。必要なのは、自分が本当に良いと思うモノを信じ、それを世に送り出す勇気。

もしもあなたのストーリーが、いまの時代や常識、風潮に合っていなかったとしても、がっかりすることはない。それは、「新しい時代をつくる芽」という証しだ。さあ、あなただけのオリジナルなストーリーを突きつけよう。どんなにやり過ぎたって、利休のように切腹させられることはないのだから。


中島英太◎電通総研Bチーム&第1CRプランニング局所属。CMプランナーとしてこれまで数百本のCMを企画。現在はコミュニケーションで解決できることならなんでも、いろいろ担当。

文=中島英太

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