新宿「どん底」で「ビリギャル」著者に聞く、教育底上げ論

『ビリギャル』の作者にして「坪田塾」塾長、坪田信貴氏。


「人の成長には個人差があります。例えば、中学のカリキュラムを学ぶのに、1年もあれば十分という子もいれば、3年かかる子もいます。ところが、学校では全員が同じ進度で授業を受けるわけです。そうすると、当然勉強に着いていけなくて落ちこぼれる子も出て来れば、逆に持て余してしまう子も出てくるのです」

坪田さんが留学していた頃、ちょうど北米でも「反転授業」という考え方が注目され始めていた。そして、坪田さんは授業する側ではなく、授業を受ける側に最適化した学習指導を実践することができる塾がないか探した結果、当時名古屋にあった私塾に行き着いたのである。

落ちこぼれは本当に出来が悪いのか?

会話が弾んできたところに、どん底名物の「厚切りチャーシュー」が届く。脂の乗った肉塊を口に運びながら、会話は次のステージへ。

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坪田さんのお話の切れ目に、フォークとナイフを使って分厚くとぐろを巻いたチャーシューを1口サイズに切り分ける。

落ちこぼれが発生する教育システムについて考察した後、坪田さんは「本当にその子たちの出来が悪いのか」を検証したいと考えるようになった。

「子どもの頃テストでいい点数を取ると、周りからよく『坪田くんはもともと出来が良いから』と言われました。でも、それってテストの点数が良かったという結果を見て言ってるんじゃない? 逆にもし点数が悪かったら、『坪田くんはもともと出来が悪いから』と言われていたのではないか。つまり、もともとの出来・不出来というレッテルは、出た結果に基づいて後づけされるのではないかという仮説を持つようになったのです」

坪田さんにとっての子別指導は、同時に教育実験でもあった。1年で偏差値を40上げて慶應義塾大学に合格したビリギャルさやかちゃんをはじめ、次々に落ちこぼれと呼ばれていた子どもたちを難関大学に合格させると、周囲の反応にある変化が表れたという。

「成績がビリだったときは、周囲に『もともと出来がよくないから』と言われていた子が有名大学に合格すると、同じ人から『もともと出来がよかったから』と言われるようになったんです(笑)。私が塾で子どもたち教えるようになってから現在までに1000人以上の子どもたちを送り出してきましたが、同じようなことが何度も起こりました。つまり、周りの人は本当に子どもたちの実力を見て評価しているわけではなく、結果を見て能力を判断していたのです」

自分が本当にできないだから結果が出ないのではない。結果を出せていないから「できない」と言われるんだ。結果を出せば、「できる」と言われるようになる。坪田さんのこの気づきが、自分の可能性を全否定していた子どもたちをどれだけ勇気づけたことだろうか。

科学的に効果が上がる方法を実践

お話をうかがっているうちに、坪田さんのパイオニアたるゆえんが少しずつ明らかになってきた。自身の成功を以て持論を育み、教育者になる人は少なくない。しかし、その人がうまくいったやり方だからといって、必ずしも他の人がうまくいくとは限らない。一方、坪田さんは個人差のある子どもたちが取り組んでも、一定の効果が期待できる科学的アプローチを教育に取り込んでいる。

「例えば、子どもたちに『大きな声で挨拶をしましょう!』と言っても、普通はどの程度声を出せばいいのかわからず、個人によって声の大きさにばらつきが出てしまいます。そこで、私はドラえもんのマネをして『タラララッタラー、デシベル計〜』と言いながら音量測定器を取り出すのです。その後、『では、60デシベルを目指しましょう!』と話すと、子どもたちは具体的な数値を目標に声を張ってくれるようになるのです」
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編集・写真=川下和彦

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