戦略としてICOに取り組むスタートアップ
しかし、ICOは全てダメと考えるのは賢明ではない。戦略的かつマジメにICOに取り組んでいる米国「Gameflip」のCEO、JTニュエン氏と話す機会があった。その株主であるサンフランシスコのベンチャーキャピタルはICO慎重派だが、そこからも助言を得ながら現実的に進めている。
ではなぜ、ICOを進めているのか? まず競合をふまえた戦略からだ。似たようなサービス内容を掲げスタートアップが複数出現し、Preプロダクトどころか、出来たばかりで実体もないような状態でのICOで何十億円を集めて始動したため、対抗する必要があった。
次にテクノロジー上の親和性。サービスにブロックチェーン技術を適用することがプラスになり、理にかなっていると判断した。そして、エコシステムだ。トークンにより、ユーザーや事業パートナーに利得をシェアすることを考えている。仮想通貨と縁がなければICOも遠くなるだろうが、このように論理的にもトークンセールを活用できると考えたのだ。
では、マジメにやるには、なにをすればよいのか?
まず、準備が結構大変だ。ICOに向けての設計(トークン、インセンティブ、ホワイトペーパー、ウェブサイト等)や準備(法務、PR、コミュニティづくり等)を、適切なアドバイザーを見つけて短期間に推進しなければならない。
いまやICOの数が増えて競争は厳しくなり、たやすく金が集まると考えるわけにはいかない。しかも、ビットコイン・コミュニティの動き、仮想通貨の相場、国際的な規制など、外的な要素の影響が大きい。それゆえ、仮想通貨投資家へのアプローチは重要だ。ベンチャーキャピタルなら米国で十分だが、トークンへの投資家は世界に広がっており、中国、日本、韓国の存在感も大きい。したがって、グローバルに考える必要がある。
ニュエン氏は、トークンセールは始まりに過ぎず、エコシステムをつくり発展させてこそ、価値が創造できると考えている。だから一気にトークンを放出せず、段階的にトークンセールを行っている。
シリコンバレーの実際の見方は?
シリコンバレー勢が概して、ICOをバブルや投機だと見ているのは実感として確かだが、一方で一つの革新ともとらえている。ベンチャーキャピタルBullpen Capitalのパートナー、ダンカン・デイビッドソン氏は、「いまのICOはバブルだが、新たな資金調達手段とみることもでき、またバブルは新たなネットワーク技術を普及させる作用もある」とプラス面も語る。
もっとも、自分が関与するなら、Preプロダクトでまとまった金額をスタートアップに投じるのは厳しいので、先に挙げたGameflipのように、PostプロダクトでのICOにお付き合いしたいものだ。
なお、日本では(新株を発行して引き受けてもらう資金調達と異なり)トークンセールは売上として計上されるので、利益に応じて税金を払わねばならない。海外でトークンを発行するスキームもあるようだが、日本で事業活動をすれば税を免れるのは難しいだろう。
そもそもスタートアップへの投資は長期的なものだ。いずれにせよ、金を出すにも集めるにも、いまだけ見て安易にするのでなく、しっかり構えてじっくり臨みたいものだ。