(中略)女優のアンジェリーナ・ジョリーが監督したこの映画は、ローラ・ヒレンブランドの『アンブロークン』を原作にしている。原作は、大ヒットし、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに3年間にわたって掲載された。主人公は、ルイス・ザンペリーニ。彼は、1917年生まれのアメリカのスター陸上選手で、1936年のベルリン・オリンピックではアメリカ陸上チームのメンバーだった。
第二次世界大戦開始後、ザンペリーニはアメリカ陸軍航空隊に入隊したが、1943年5月、南太平洋における作戦に従事していたときに、彼の乗った飛行機のエンジンが故障し、海に墜落した。彼は47日間、海原を漂った後、日本軍に発見され、その後の2年間を日本の捕虜収容所の過酷な環境の中で過ごした。戦後、熱心なキリスト教徒になり、寛容と融和の大切さを人々に説いた。
この映画は、親の指導があれば、子供が観るのにふさわしいとされるPG-13の指定を受けており、内容的には原作の過激な描写は除かれたものになっている。 (中略)原作が大ヒットしたのは、寛容と融和の大切さというテーマに加えて、ザンペリーニの生き方が、逆境にあっても生きようとする人間の強い意志と決意を証明しているからでもあると見られている。原作の普遍的なテーマにとっては、日本が舞台である必然性はなかったのである。
しかし、結果として、原作と映画についての解釈は、現在の日米関係を反映すると言えよう。たとえば、事前上映のあった翌朝の12月9日、ワシントン・ポスト紙に「歴史を書き換えるという日本の体質がその将来に影響を及ぼすか?」と題する記事が載った。同紙コラムニストのリチャード・コーエンが書いたもので、過去の軍国主義に触れ、安倍晋三首相と彼の支持者が歴史を書き換え、慰安婦問題について、当時の日本政府の役割を過小評価しようとしているとして、批判するためにこの映画を引き合いに出している。一方、日本では、この映画の日本での上映を禁止しようとの動きがあるようだ。報道によれば、その動きは、この映画が「日本の捕虜収容所で拷問がなかったにもかかわらず、拷問を見せることによって、歴史を歪曲している」との主張に基づいている、とのことだ。
偶然にも、昨年12月9日、アメリカ上院が、2001年9月11日のテロ攻撃の直後にアメリカが犯人捜査に使った拷問を含む「強力な尋問テクニック」に対して批判的な報告書を公表した。この報告書を批判しているのは、主として共和党で、「戦争状態にある時には捕虜から情報を引き出すために、拷問は正当化される」と主張している。他方、報告書を擁護しているのは主に民主党で、「民主国家であるアメリカは、そのような拷問は許容してはならないし、アメリカの行いは間違っていたと認めるべきだ」と主張している。
日本でこの映画が上映されるときは、次の3点を念頭に入れて見てほしいと思う。第一に、映画のメッセージは、人間の意志の勝利、逆境での生き方、寛容、融和という普遍的なテーマであること。第二に、9.11テロ攻撃後のアメリカの拷問に対する自己批判が話題となっていること。第三に、アメリカには、日本の現在の指導者たちが、過去を洗い流すために歴史を書き換えようとしていると疑っている人が少なからずあり、この映画の日本での上映禁止は、この疑いが正しかった証拠として使われる可能性がある。