先行き不透明な時代、日本のCEOに必要な「攻めの姿勢」

KPMGジャパンCEO、あずさ監査法人理事長の酒井弘行

人工知能やIoTなど先端技術の開発が急速に進むなか、CEOの意識はどう変化しているのか。また先行き不透明な時代に、経営者はどうリーダーシップを発揮すべきか。KPMGジャパンCEO、あずさ監査法人理事長の酒井弘行に聞いた【参考:世界「1300人のCEO」意識調査】


──世界経済の見通しに対するCEOの見方が後退しているようです。

酒井弘行(以下、酒井):今後3年間の世界経済について、「非常に自信がある」「自信がある」と回答した割合は、世界全体で65%と昨年の80%に比べ低下しました。

特に日本のCEOは、昨年の93%から21%に大きく減りました。英国の欧州連合離脱や米トランプ政権の発足、北朝鮮の弾道ミサイル発射、イスラム過激派による相次ぐテロなど、昨年から今年にかけて起きた地政学リスクの高まりを受け、経済の不透明さがさらに増すとネガティブにとらえる経営者が日本には多いようです。

──日本のCEOの見方はかなり厳しくなりましたね。

酒井:とはいえ、日本のCEOは、自社の成長見通しについて「非常に自信がある」「自信がある」と答えた割合が88%に上り、昨年の92%からあまり減少していません。日本の経営者は、経済が不確実な状況にあるとは認識していても、自社の事業戦略には自信をもっているということでしょう。

──経営者は自社の先行きについて、具体的にどのようなイメージをもっているのでしょうか。

酒井:調査では「今後3年間で自社が大きく異なる事業体に変革する可能性がある」と答えた割合が、世界全体では26%にとどまったのに対し、日本のCEOは42%に上ります。変革を起こす要因として、最も多く挙げられたのは「新しいテクノロジーの採用」です。テクノロジーの進化によって、自社のあり方が変わっていくと考えるCEOが多い傾向が読み取れます。

さらに「今後3年間で、技術イノベーションにより自社の業界に大きな破壊が起こる」と回答した割合も、日本のCEOは87%に達し、世界全体の48%を上回りました。「最先端テクノロジーに追随できるかどうかを懸念する割合」も、日本は79%で、全体の47%を大きく上回ります。日本の経営者は、テクノロジーに対する危機感をより強くもっているように見えます。

──では、日本の経営者はどんな点に力を入れていますか。

酒井:今後3年間で投資を増加する分野を聞いたところ、日本のCEOの83%が「規制対応」と答えました。これは、「IT基盤」の80%や「物理基盤」の77%、「サイバーセキュリティ」の76%を上回り、最も多い。世界全体の60%に比べても高い数字です。事業環境がこれだけ大きく変化するなかで、経営者が規制対応に最も関心を払っているという点には、少し物足りなさを感じるとともに、あえて言えば残念でもあります。

今後3年間の戦略的優先事項を聞いても、日本のCEOの24%が「投資家報告の妥当性の向上」を挙げ、「市場進出スピードの向上」の30%、「破壊的テクノロジーの導入」の27%に次いで3番目に高い項目になりました。世界全体では、投資家報告の妥当性の向上は、上位10番目にも入りません。規制対応についての回答結果と併せ、日本のCEOは、攻めの姿勢が足りないのではないでしょうか。
次ページ > 保守的になった原因

文=池田正史 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事