先行き不透明な時代、日本のCEOに必要な「攻めの姿勢」

KPMGジャパンCEO、あずさ監査法人理事長の酒井弘行


──なぜそうなったとお考えですか。

酒井:経済活動に対する自由度の低さがひとつ挙げられるかもしれません。日本の経済活動の自由度は、実は中国よりも低いのではないでしょうか。中国は制約の多い社会のように思われていますが、政治上のものはさておき、経済活動に関しては全く自由です。

最近中国の成都を訪れたら、交差点に止まっている自転車の9割近くがモバイク社のオレンジ色の特徴的な自転車で占められ、シェアリングエコノミーの急速な浸透ぶりに驚きました。

現在の日本では、見知らぬ者同士が直接にモノの貸し借りをすることに、まだ強い抵抗があるようです。そのためシェアリングビジネスも、大手企業が仲介役を果たすことが多い。日本の経営者だけでなく、日本人は、バブル崩壊以降、かなり保守的になってしまったように思います。

──日本の経営者はどんな点をリスクとしてとらえていますか。

酒井:「レピュテーション/ブランドリスク」を挙げた割合が、日本では41%と最も高く、昨年の17%から大きく上昇しました。「オペレーショナルリスク」も23%と、昨年の18%から増えています。近年は経済のグローバル化が進むとともに、ビジネスの境界線もあいまいになり、業務を進める上で提携先や関連会社に対する依存度が高まっています。その結果、業務内容がより高度化・複雑化し、業務の全貌を把握するのが難しくなりました。

それでも、企業は途切れなく業務を遂行していかなければなりません。多くの経営者が、懸念材料としてレピュテーション/ブランドリスクやオペレーショナルリスクを挙げたのは、こうした事業環境の変化に対する認識の変化の表れといえそうです。

──今後の成長に向けて日本企業はどんな戦略を取るべきなのでしょうか。

酒井:成長に向けて取るべき実行手段として、日本のCEOの52パーセントが「他社とのパートナーシップ、ジョイントベンチャー等」を挙げました。自社にない先端のテクノロジーを導入するために、ベンチャー企業をはじめ他社との提携・連携を重視する姿勢です。こうした大企業の経営者がもつ他社との連携、融合への姿勢は今後の日本にとって、とても重要だと思います。

今回の調査結果からは、日本のCEOがやや内向き姿勢を取っているように感じられました。世界経済はいま、人工知能やIoTといった先端技術の進展やシェアリングエコノミーの拡大などを背景に、大きな転換点にあります。そんな時に規制ばかりを気にしていては、明日はありません。日本のCEOの半数以上が、AIやIoTといった「破壊技術は脅威でなくビジネス機会である」と答えましたが、変革をチャンスとしてとらえ、自ら次の成長に向けたドアを開き、世界に出ていってほしいと思います。


さかい・ひろゆき◎1957年三重県四日市市生まれ。80年慶応義塾大学経済学部卒業。80年白鳥栄一公認会計士事務所(アーサーアンダーセン)入所。2010年専務理事、13年東京事務所長、15年に理事長就任。同時に、KPMGジャパンCEO、あずさ監査法人理事長を務める。

文=池田正史 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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