CDOの「D」はDigitalではなく、Disruptor──。冗談交じりにそう言われるが、既存の事業を破壊して新しい価値を創出するという意味では、本質を突いているかもしれない。アメリカでCDOのTOP100が発表されるのも、大企業ほどデジタル変革を迫られているからだ。TOP100には、スターバックス、LVMH、マスターカード、ピザハット、GMなどに並び、ニューヨーク市役所といった行政組織も入っている。
では、CDOの役割とは何か。世界最大のCDOコミュニティ「CDO Club」の日本組織「CDO Club Japan」の代表、加茂純が説明する。
「大前提として、IoTやAIなど技術が進化するなかで、既存のビジネスは変化を迫られています。消費者もデジタルツールを使うようになり、この社会の波に企業としてどう応えるか。また、日本の場合は、生産者人口が減少しているため、事業プロセスを省人化する必要があります。
CDOの役割は3つ挙げられます。1、社内のプロセスをデジタルによって効率化する社内改革。2、デジタルを使ってユーザーのことを知り、新商品を開発する。3、新しいビジネスモデルの開発。世界では、一企業に1人のCDOが当然の流れになってきています」
こうした組織変革を、「デジタル・トランスフォーメーション」という。行政府の場合は、住民への行政サービスや入国審査などをオンライン上で可能にしたり、観光事業など対外政策もデジタルマーケティングで積極策に出る。組織そのものをデジタル対応にするため、縦割りの壁を崩して、横串を通す必要がある。自ずと無駄を省き、「見える化」にもつながる。
しかし、花王のデジタルマーケティングセンター長、鈴木愛子は頭を抱えたという。「カタカナでデジタル化という概念だけ伝えても、社員全員に理解してもらうことができるのだろうか」と。
彼女は模索しているときに、日本初のCDO、日本ロレアルの長瀬次英の講演を聞きに出かけた。ここで鈴木の腹に落ちたのは、長瀬の次の言葉だった。
「デジタル変革とは、お客様との距離を縮めることです」
日本ロレアルは「ソーシャルリスニング」というツールを導入し、SNSやブログなどから顧客の声を分析。デジタル技術を使うことで、化粧品の販売会社から顧客起点の商品開発を提案できる会社に進化させた。日本から世界に提案できる「ジャパンファースト」の好例だろう。
鈴木が言う。
「花王の企業理念にも、顧客を最もよく知る企業となること、という一文があり、デジタルとはそれを実現できるツールだと思いました。これまで花王はお客様を理解するため、定性・定量調査を行ってきましたが、これは問いかけに対するお客様の答えです。問いかけだけでお客様を理解するのは限界があるのですが、より深く理解するのに、デジタルは有効だったのです」